フィジカルAIに注力するインテル、組み込み市場での約40年の実績を生かせるか:インテル・ロボティクス・ワークショップ2026【前編】(3/3 ページ)
「インテル・ロボティクス・ワークショップ2026」のレポート記事をお送りする。今回の前編では、インテルのロボティクス/フィジカルAI戦略に関する基調講演や、ソフトウェアベースのモーションコントローラーを提供しているモベンシスの取り組み事例などについて紹介する。
AI推論とリアルタイム制御を統合するモベンシスの「WMX」
ソフトウェアベースのモーションコントローラーを手掛けるモベンシスは、「AIの判断からロボットの実行に生じる遅延」という課題を解決するインテルとの共同ソリューションを、2026年5月末に台湾で開催された「Intel Edge Solution Summit 2026」で発表した。
一般のフィジカルAIシステムは、AIの推論/画像認識を行う「GPU搭載PC」と、ロボットの動きを制御する「専用モーションコントローラー」が別々のハードウェアとして分離している。そのため機器間で通信遅延が発生するためリアルタイム性には限界があった。モベンシスのソリューション「See-Think-Act」は、インテルのプロセッサを搭載した1台のAI PCだけで、AI推論と高精度なロボット制御を同時に実現することができる。
中核にあるのはインテルのCore Ultra シリーズ3搭載のAI PC上で動作するモベンシスのソフトウェアモーションコントローラー「WMX ROS2」である。WMX ROS2がインテルのAI推論最適化ツールキット「OpenVINO」と統合され、リアルタイム応答を実現するインテルのTCCに対応することで、専用のロボットコントローラーを用いることなく、単一PC上でAI推論とリアルタイムロボット制御を同時に実行できる。
モベンシス 代表取締役社長の梁富好(ヤン・ブホ)氏は「フィジカルAIと従来の生成AIとの決定的な違いは、ループの最後に『行動』が存在することだ」と指摘した。そしてその本質は、See(見る)、Think(考える)、Act(動く)の3つのプロセスをリアルタイムで回すことにある。従来のロボットは、あらかじめプログラミングされた通りに動く「Act」のみだった。フィジカルAIは視覚や言語を介して判断し、行動に移す。
現在のフィジカルAIロボットは、判断をつかさどるGPUと、制御を担うロボットコントローラーが物理的に別々のデバイスとなっている。GPUとコントローラーの間には物理的な通信遅延が発生する。 またGPU側の判断周期は50m〜500msとばらつきがある。一方、ロボット側の制御は通常1ms(1000μs)程度の一定周期を必要とする。一般的なフィジカルAIシステムでは、認識から行動までに300m〜500msの遅延が生じ、これがロボットのギクシャクした動きや、シミュレーションなどの仮想環境と現実の環境の間に生まれる「Sim-to-Realギャップ」の大きな要因となっている。
全ての多軸の機械にはモーションコントローラーが存在する。モベンシスはハードウェアではなくソフトウェアによるモーションコントロールを提案しており、最速62.5μsの周期での多軸制御を実現している。梁氏は、マサチューセッツ工科大学に在籍した時代から30年近くソフトウェアによるモーションコントロールの開発を行っており、世界中で30以上の特許を取得し、累計で5万5000以上のライセンスが半導体製造装置などのミッションクリティカルな現場で稼働しているという。
モベンシスの「WMX R2」は、同社が開発したフィジカルAIのための「リアルタイム実行レイヤー」としてのソフトウェア製品である。インテルのCore Ultra シリーズ3に搭載されたTCCやRDTなどの技術を活用することで、WindowsやLinuxといった汎用OS上でも、AI処理に干渉されることなく確実なリアルタイム性能を発揮するように設計されている。
梁氏は「WMX R2を使えば、VLAから出てくる指令を遅延なしで実行できる。0.25msの制御周期で、非常に精細な制御が可能になる。消費電力も抑えられる」と紹介した。また「インテルのアーキテクチャは。わが社のために作られたのかと思うほどリアルタイム制御に向いている」と表現した。
WMX R2はROS 2に対応しており、2026年8月4日に茨城県つくば市で開催される「ROSCon JP 2026」での正式発表が予定されている。当面はライセンスフリー(無償)で提供される。WMX R2を使うことで、例えばロボットの背中に複数のボードを背負わせる必要がなくなる。展示会場では、1台のAI PCによるAI推論と制御でロボットアームがボードゲームの「モノポリー」をプレイする様子をデモとして披露した。
後編では、インテル・ロボティクス・ワークショップ2026に登壇した、三菱UFJ銀行、Preferred Networks、トヨタ自動車の講演を紹介する。
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