テスラにおけるギガキャストの基本的な考え方と方向性【前編】:いまさら聞けないギガキャスト入門(6)(5/5 ページ)
自動車の車体を一体成形する技術である「ギガキャスト」ついて解説する本連載。第6回からは前後編に分けて、テスラのギガキャストに関する基本的な考え方とその方向性について見てみる。
1)ボディープレス機(大型プレスライン)
図5に自動車ボディーパネル成形用の大型プレスラインを示す。
まず図5(a)は、トヨタ自動車の工場の大型プレス成形ライン(機)である。
この図5(a)では分かりにくいところもあるので、図5(b)〜(d)にトヨタ自動車の工場で使われている機械よりも新しい、コマツ産機の自動車ボディーパネル成形用大型プレスライン「Komatsu ServoPress H*FTL」を示す。
大型プレス成形機も、従来のものから新しいサーボプレス機に変革しており、世界トップクラスの性能、生産性の向上を図っている。自動車の外板パネルの生産に用いるKomatsu ServoPress H*FTLの主な特徴は、高生産性、高成形性の実現、省エネルギーで、以下の5つの機能によって実現している。
- 高速振り子フィーダを搭載し、プレスを位相差運転することで十分な搬送時間を確保し、高速化を実現
- 2本振り子タイプに加えて柔軟なパネル搬送が可能な1本振り子タイプを開発、導入
- PLS(プレスラインシミュレーター)による金型との干渉確認と最適モーションの生成
- サーボモーターの高速応答性を利用したサーボダイクッションにより、高成形性とNC化によるトライ時間の短縮を実現
- サーボプレスとサーボダイクッションの電源回生で消費電力を削減
図5(e)は、ワゴンオートモーティブナゴルト(Wagon Automotive Nagold)の搬送装置によりブランク材をプレス成形機に投入する様子である。ちなみに同社は、主要な自動車メーカーと協力し、板金成形、車体構造、表面コーティングのシステムサプライヤーとして活動し、乗用車および商用車向けの大型で複雑なシャシーモジュールの製造を専門としており、鋼材または軽量構造材料で製造している。
大型プレス機は、鋼板コイルやブランク材を上下の金型で挟み込み、車体外板/骨格部品を成形する設備である。自動車用プレス機では、単純に1回押すだけではなく、一般的には複数工程を経て形状を作る。
つまり、図6に示すように、1枚のフロントフェンダーパネルでも、絞る⇒切る⇒曲げ⇒寄せ曲げ(接合部形成)、という4つの工程が必要であり、それぞれ専用のプレス機が必要になる。
- ドロー(絞り):鋼板を深く引き伸ばし、立体形状を作る工程である
例:ドアパネル、ボンネット、フェンダー、ルーフ、サイドボディーなどのボディーの曲面を作る - トリム(抜き):絞った後の余分な材料を切断する工程である。外周形状を決める、穴加工部を作ることが目的となる
- ベンド(曲げ):フランジ部分などを折り曲げ、剛性や組み付け面を作る工程である
- フランジング/ベンディング(寄せ曲げ):溶接や接合のための端部形状を作る工程である
大型プレスラインは数千トン級となり、設備単体でも非常に高価である。大型自動車工場では巨大なプレス設備が導入されている。(次回の後編に続く)
参考/引用文献
- 武藤一夫「図解よくわかる機械加工」、共立出版社、2012年4月、ISBN:9784320081888
- 武藤一夫、高松英次「これだけは知っておきたい金型設計・加工技術」、日刊工業新聞社、1995年1月、ISBN:9784526036439
- 武藤一夫「エンジニア必携トヨタにまなぶ デジタル生産事例・用語集」、産業図書、2021年12月、ISBN:9784782841082
- 武藤一夫「図解CAD/CAM入門 CAD/CAE/CAM/CATによるモノづくりを解説」、大河出版、2012年8月、ISBN:9784886617224
- 武藤一夫「進化し続けるトヨタのデジタル生産システムのすべて」、技術評論社、2007年12月、ISBN:9784774132822
- Tesla
- Wikipedia
筆者プロフィール
武藤 一夫(むとう かずお) 武藤技術研究所 代表取締役社長 博士(工学)
1982年以来、職業能力開発総合大学校(旧訓練大学校)で約29年、静岡理工科大学に4年、豊橋技術科学大学に2年、八戸工業大学に8年、合計43年間大学教員を務める。2018年に株式会社武藤技術研究所を起業し、同社の代表取締役社長に就任。自動車技術会フェロー。
トヨタ自動車をはじめ多くの企業での招待講演や、日刊工業新聞社主催セミナー講演などに登壇。マツダ系のティア1サプライヤーをはじめ多くの企業でのコンサルなどにも従事。AE(アコースティック・エミッション)センシングとそのセンサー開発などにも携わる。著書は機械加工、計測、メカトロ、金型設計、加工、CAD/CAE/CAM/CAT/Network,デジタルマニュファクチャリング、辞書など32冊にわたる。学術論文58件、専門雑誌への記事掲載200件以上。技能審議会委員、検定委員、自動車技術会編集委員などを歴任。
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