低温環境がマラリアの赤血球侵入をブロック、増殖を6割抑制:医療技術ニュース
東京慈恵会医科大学は、低温環境がマラリア原虫の遺伝子の働きを弱めて赤血球侵入効率を低下させ、原虫の増殖を抑制することを明らかにした。体温低下と抗マラリア薬の併用は、薬剤単独療法よりも増殖を抑制した。
東京慈恵会医科大学は2026年5月28日、低温環境がマラリア原虫の遺伝子の働きを弱めて赤血球への侵入効率を低下させ、原虫の増殖を抑制することを突き止めたと発表した。体温低下と抗マラリア薬の併用が、薬剤単独療法より原虫の増殖を強く抑制することも確認している。
研究グループは、ヒトマラリア原虫の培養系を用いた実験で、33℃まで冷やされたマラリア原虫において、発現量が50%以下に低下した遺伝子を認めた。その中には、赤血球侵入に重要なama1遺伝子をはじめ、赤血球への侵入に関わる遺伝子群が多く含まれていた。網羅的遺伝子解析手法のRNA-seq解析により、低温ストレスに暴露された原虫では、赤血球侵入関連遺伝子の発現が低下することが実証された。
マウスを用いたマラリア感染モデルによる実験では、低体温療法時の体温に相当する35℃まで体温が低下した条件で、原虫の増殖が約62%抑制された。加えて、既存の抗マラリア薬アーテスネートと低体温を組み合わせることで、薬剤を単独で使用したときよりもマラリア原虫の増殖を約61%抑えることに成功した。
マラリアは、年間2億人以上が感染し、60万人以上が死亡する重大な感染症だ。特に熱帯熱マラリア原虫のPlasmodium falciparumは、脳マラリアなどの重篤な症状を引き起こす。これまで、発熱に相当する高温環境が原虫に与える影響については研究されていたが、宿主体内における軽度低温環境の影響は十分に解明されていなかった。
今回の研究成果は、温度という宿主環境因子が原虫の病原性を制御できる可能性を示している。将来的には、宿主の体温環境を制御して病原性を抑える体温コントロールに基づいた、新しい重症マラリア治療法の確立や、既存の薬剤との併用治療をはじめとした新アプローチへの応用が期待される。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
マラリアが重症化するメカニズムを解明
大阪大学は、ヒトに感染する熱帯熱マラリア原虫が免疫応答を抑えて重症化を引き起こすメカニズムを発見した。感染した赤血球上にタンパク質「RIFIN」が発現し、免疫反応を抑制することでマラリアが重症化する。
持続感染性を有するウイルスの獲得に成功
名古屋大学は、センダイウイルスの遺伝的多様性を高め、持続感染性を獲得したウイルスを得ることに成功した。センダイウイルスのベクター機能改良や、急性感染性ウイルスの生態解明に貢献する成果だ。
あらゆる新型コロナ変異株を感染阻止できる抗体を開発
理化学研究所は、新型コロナウイルスの感染侵入に必要なヒト酵素TMPRSS2を狙ったモノクローナル抗体を開発した。実験では、全ての変異株で感染を阻止できることが示された。
蚊の唾液がウイルス感染を後押し、TLR2が鍵に
順天堂大学は、蚊の唾液に含まれるTLR2リガンドが、デングウイルスや日本脳炎ウイルスなどの蚊媒介性フラビウイルスの感染を増強することを明らかにした。感染部位にTLR2阻害剤を投与することで、フラビウイルスの病原性が著しく低下する。
野生蚊からウイルス感染の痕跡を検出する新手法を確立
東京慈恵会医科大学は、蚊のウイルス感染の痕跡を検出する「vDNA-LAMP法」を確立した。得られた蚊の検体データからvDNA陽性地点を地図上に表示することで、感染リスク分布を可視化できる。
多様なウイルスを防御、弱毒生ワクチンの経鼻感染の有効性を確認
理化学研究所は、弱毒生ワクチンを経鼻感染させると、さまざまなウイルス株に対して感染を防御できる広域中和抗体が産生されるメカニズムを解明した。

