特殊鋼の基礎知識:鉄鋼材料の基礎知識(11)(3/3 ページ)
今なお工業材料の中心的な存在であり、幅広い用途で利用されている「鉄鋼材料」について一から解説する本連載。第11回は、特殊鋼について説明する。
合金鋼系
合金鋼系の機械構造用鋼は、全40種がJISに規定されています。図7に示すように、添加されている合金元素の種類によって「マンガン鋼(SMn)」「マンガン/クロム鋼(SMnC)」「クロム鋼(SCr)」「クロム/モリブデン鋼(SCM)」「ニッケル/クロム鋼(SNC)」「ニッケル/クロム/モリブデン鋼(SNCM)」「アルミニウム/クロム/モリブデン鋼(SACM)」があります。これらは炭素量や合金元素量によってさらに細かく分類されます。
機械構造用合金鋼は、主に焼き入れ性を改善したい場合に使用されます。前述した機械構造用炭素鋼は厚肉になると、焼き入れしても内部まで十分に硬化しないことがあります。マンガン(Mn)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)は鋼の焼き入れ性を良くしてくれるため、これらが添加されている機械構造用合金鋼は焼き入れすると、厚肉であっても内部まで硬化します。ニッケル(Ni)が添加されているものは、同時に靭性が改善されます。
よって、機械構造用合金鋼は焼き入れ/焼き戻しを施して使用することが一般的であり、これによって高い強度と靭性が得られます。ただし低炭素量のもの(例えばSCr420、SCM420など)は、主に浸炭処理を施して使用します。SACMは窒化処理用であり、窒化処理を施して使用します。
軸受鋼
軸受鋼は、転がり軸受(ベアリング)に適した材料特性を持つ特殊鋼です。
転がり軸受は、内輪と外輪の間にボールやころと呼ばれる転動体を配置し、回転する軸を支える機械要素部品として知られています。自動車や建設機械、工作機械など、幅広い機械/機器に使用されています。稼働中の軸受が受ける荷重条件は過酷であり、軸受には高い「耐摩耗性」と「転がり疲れ特性」が要求されます。軸受鋼はこれらの材料特性に優れています。
軸受鋼として有名な「高炭素クロム軸受鋼」は材料記号を「SUJ」とし、全4種がJISに規定されています。図8に示すようにC量が約1%、Cr量が1〜1.5%程度となっており、焼き入れ/焼き戻しを施すことで非常に硬く、耐摩耗性と転がり疲労特性に優れた材料となります。参考値として紹介すると、SUJ2の焼き入れ/焼き戻し後の硬さは60〜65HRCにもなります。
なお、焼き入れ/焼き戻しを施して硬くなった軸受鋼は、加工が非常に困難です。そこで、先に球状化焼きなましを施して軟らかくし、最終形状近くまで加工してから焼き入れすることが一般的です。
ここで、軸受鋼の品質向上技術について紹介します。転がり軸受は稼働中、内輪/外輪の軌道面と転動体の転走面に絶えず繰り返し荷重が発生します。繰り返し荷重を受け続けると鋼が疲労し、表面が剥がれ落ちて損傷します。この現象を「フレーキング」といいます。フレーキングが発生するまでのサイクル数や時間は「転がり疲労特性」として評価されます。
フレーキングは鋼中の「非金属介在物」が応力集中源となることで生じます。非金属介在物とは、鋼中に含まれている微小異物のことです。非金属介在物の量が多いほど、またサイズが大きいほどフレーキングが発生しやすいため、特殊鋼メーカーでは軸受鋼の高清浄度化に取り組んでいます。山陽特殊鋼のように、製鋼技術を駆使して世界最高クラスの高清浄度鋼を製造するメーカーがあります。
ばね鋼
ばね鋼は、重ね板ばね、コイルばね、トーションバーなどのばねに適した材料特性を持つ特殊鋼です。
ばねは荷重を受けると、弾性変形することで衝撃を緩和する機械要素部品として知られています。ばねには、荷重を解放したときに形状を復元できる「高い弾性限」と、繰り返し変形に耐えられる「疲労強度」が求められます。また、ばねに高い荷重が加わる場合は「硬さ」も要求されます。ばね鋼は、これらの材料特性を兼ね備えています。
ばね鋼は材料記号を「SUP」とし、全9種がJISに規定されています。図9に示すように、添加されている合金元素の種類によって「シリコン/マンガン鋼(SUP6、SUP7)」「マンガン/クロム鋼(SUP9、SUP9A)」「クロム/バナジウム鋼(SUP10)
」「マンガン/クロム/ボロン鋼(SUP11A)」「シリコン/クロム鋼(SUP12)」「クロム/モリブデン鋼(SUP13)」があります。それぞれ用途に応じて使い分けられます。
ばね鋼は炭素量を高めとし、ケイ素(Si)やクロム(Cr)などの合金元素を添加することで高い強度を確保する成分設計としています。焼き入れ/焼き戻しを施すことで弾性限や疲労強度が向上し、ばね特性が最大限発揮されます。モリブデン(Mo)またはボロン(B)を添加している品種は焼き入れ性が高いため、大形のばねに使用できます。
快削鋼(かいさくこう)
快削鋼は「被削性(削られやすさ)」に優れている特殊鋼です。被削性がよいことで加工時間が短縮し、工具が長持ちするというメリットがあります。仕上がり面の表面粗さや寸法精度が良好な点も快削鋼のメリットです。そのため、快削鋼は寸法精度を求める自動車部品やOA機器の部品などに利用されています。
快削鋼は材料記号を「SUM」とし、全13種がJISに規定されています。図10に示すように炭素鋼をベースとし、硫黄(S)や鉛(Pb)が添加されています。これらの元素は鋼を脆化させる元素としても知られていますが、快削鋼ではあえて添加することで被削性を高めています。炭素やマンガンの量を高めることで、被削性を高めつつ機械的性質を確保している品種もあります。
ピアノ線材
ピアノ線材は、その名の通りピアノ線の材料として使われる特殊鋼です。
ピアノ線は鋼製の線であり、鉄鋼材料の中で最強の強度を誇ります。もともとピアノの弦に使用されていたことからその名が付いていますが、工業用途ではソーワイヤやPC鋼線など、自動車ではばねやスチールコードなどに使用されています。また、エレベーターのケーブルや長大橋のケーブルなどにも使用されています。
ピアノ線材は材料記号を「SWRS」とし、全18種がJISに規定されています。図11に示すように、ピアノ線材は共析点(Fe−C系平衡状態図における炭素量が0.76%の地点)に近い炭素量としています。特別な合金元素は添加されていませんが、リンや硫黄などの不純物が少なく、脱炭層(炭素濃度が薄い層)がないことが要求されます。
ピアノ線材は、「伸線(しんせん)加工」と呼ばれる塑性加工によってその強度を引き出しています。その際、前処理が重要となり、「パテンティング」と呼ばれる熱処理を行って組織を微細なパーライト組織とします。その後引き伸ばしていくことで鋼に塑性変形を与え、細さと高い強度を得ます。
マルエージング鋼
マルエージング鋼は高Ni成分とし、後述する時効処理(エージング)によって析出強化されたマルテンサイト組織を持つ特殊鋼です。鉄鋼材料の中でも特に高い強度を誇り、グレードによっては2000MPa以上の引張強さがあります。なおかつ靭性にも優れ、加工性にも優れています。用途はCVTベルトや工具類をはじめとし、航空/宇宙分野の構造材にも使用されています。
マルエージング鋼は18%Niを基本成分とし、その他の合金元素としてコバルト(Co)が7〜13%、モリブデン(Mo)が3〜5%、チタン(Ti)が0.2〜1.8%、アルミニウム(Al)が0.05〜0.15%程度添加されています。
前述した時効処理は、硬い金属間化合物を基地中に分散して析出させる処理となります。前処理として850℃前後で固溶化処理を行い、組織をオーステナイトにして合金元素を固溶させたのち、室温まで空冷してマルテンサイト組織とします。その後500℃前後で時効処理すると、Ni3MoやNi3Tiなどの微細な金属間化合物が析出し、基地が硬化します。メーカーの技術的な取り組みとしては、結晶粒の微細化によって延性の向上や、不純物の低減によって靭性の向上が図られています。
以上、特殊鋼について説明しました。特殊鋼の製法や種類、材料特性についてご理解いただけたなら幸いです。次回は、工具鋼について説明します。
筆者紹介
ひろ/モノづくりの解説書
鉄鋼品メーカーに勤務するモノづくりエンジニア。入社以来、大型鉄鋼品の技術開発、品質保証、生産管理等の業務に携わってきた。自身が運営するWebサイト「モノづくりの解説書」では、モノづくり業界の魅力を発信する記事や技術解説記事などを公開している。
参考文献:
[1]JIS G 4051:2023、機械構造用炭素鋼鋼材
[2]JIS G 4053:2023、機械構造用合金鋼鋼材
[3]JIS G 4805:2025、高炭素クロム軸受鋼材
[4]JIS G 4801:2021、ばね鋼鋼材
[5]JIS G 4804:2021、硫黄及び硫黄複合快削鋼鋼材
[6]JIS G 3502:2024、ピアノ線材
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