その在庫、いつ現金に戻りますか? 経営をけん引するSCMへのアップデート術:「稼ぐサプライチェーン」の作り方(1)(1/3 ページ)
現場のサプライチェーン改善は、会社のキャッシュ創出につながる――。本連載では、実践的な知見をもとに「稼ぐサプライチェーン」の構築法を解き明かします。第1回となる今回は、現場の意思決定を経営レベルへと引き上げる第一歩として、物流担当者が身につけるべき「B/S(貸借対照表)視点」と、現場の数字の捉え直し方を取り上げます。
「在庫は極力減らしたい、でも欠品は絶対に避けたい。そのうえ物流費も削らなければならない」――日々、在庫と納期に向き合うサプライチェーンの現場は、常に矛盾した要求の板挟みになっています。しかし、実のところ物流部門は、会社のキャッシュをコントロールし、利益を生み出す最大のポテンシャルを秘めた経営の要とも言えます。
本連載では、製造、モノづくり領域に特化したプロ人材の伴走支援サービス「ウィズプロ」のプロフェッショナルが、現場改善の努力を経営戦略への貢献につなげる「稼ぐサプライチェーン」の作り方をひもときます。
毎日向き合っている「在庫」や「リードタイム」という物理的な指標が、会社の「お金」にどう結びついているのか。まずは指標の見方をアップデートする「認識の転換」からスタートし、キャッシュを生み出す「在庫戦略の構築」、そして経営をけん引する「サプライチェーン全体の設計」へとステップアップしていきます。日々の現場での意思決定を経営レベルへと引き上げるための、実践的なアプローチをぜひ手に入れてください。
黒字なのに資金が足りないのはなぜ?
製造業の現場で、次のようなフレーズを耳にしたことはないでしょうか。
「売り上げは伸びている。利益も出ている。それなのに資金繰りは楽にならない」
この一見矛盾した状況は、決して珍しいものではありません。むしろ、多くの製造業において、ある種「構造的に起こる問題」と言っても過言ではありません。
例えば、ある機械部品メーカーX社(年商50億円)では、まさにこの問題が顕在化していました。X社は、機械メーカーを主要顧客とする典型的なB2B製造業です。受注生産と見込み生産が混在し、リードタイムは数週間から数カ月に及びます。ここ数年、顧客からの納期短縮要請と受注量の増加が続いていました。
この状況に対応するため、X社の経営陣は次のような意思決定を行います。
- 主要部品の在庫を2.0倍に積み増す
- 仕掛品の先行生産を進める
この判断は、現場から見れば極めて合理的です。納期を守ることは受注維持の前提であり、在庫はそのための“保険”として機能します。また、機会損失を防ぐためには、一定の在庫を持つことは不可欠です。実際、この施策は短期的には成果を上げました。
- 納期遅延はほぼゼロ
- 受注は過去最高水準
- 売り上げも順調に伸長
一見すると、理想的な状態に見えます。しかし、この意思決定から数カ月後、経営会議で次のようなやりとりが行われます。
営業部長はこう報告します。
「受注は過去最高です。今期はさらに伸びる見込みです」
生産部門も続きます。
「ラインはフル稼働です。前倒し生産で対応できています」
物流部門も自信を持って言います。
「納期遅延はほぼゼロです」
ここまでは、全てが順調です。しかし最後に、経理部長がこう切り出します。
「3カ月後に予定している設備投資の資金が不足する見込みです」
売り上げは伸びている。利益も出ている。現場も回っている。それなのに、なぜお金が足りないのか。
この違和感の正体はシンプルです。利益とキャッシュは別物だからです。P/L(損益計算書)上では利益が出ていても、それがすぐに現金として手元に入るわけではありません。むしろ製造業においては、売り上げが伸びるほどキャッシュが不足するケースすらあります。
その差を生み出している主要な要因の1つが、在庫です。X社では、在庫を積み増した結果、B/S(貸借対照表)上でキャッシュが在庫として固定化されました。言い換えれば、在庫を増やした瞬間に、企業は現金を失っているのです。
「なぜ黒字なのに資金が足りないのか」という問いに答えるためには、この構造を理解することが不可欠です。
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