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混紡繊維リサイクル技術の開発の背景と経緯混紡繊維の分別/リサイクル技術(1)(2/2 ページ)

本連載では、大阪大学 大学院工学研究科 教授の宇山浩氏の研究グループが開発を進める「混紡繊維の分別/リサイクル技術」を紹介。第1回では、混紡繊維リサイクルの背景と開発の経緯について解説する。

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繊維リサイクルを阻む混紡という技術的ボトルネック

 プラスチックリサイクルにおける成功事例として挙げられるのがペットボトルです。日本ではペットボトルの単一素材回収スキームが社会的に確立されており、さらに高度な再資源化技術が組み合わさることで、国内のリサイクル率は85%という極めて高い水準を維持しています。しかし、同じポリエステルという素材を主成分としながらも、衣料品の分野ではこのような高度な循環は実現できていませんでした。その最大の障壁となっているのが混紡という文化です。

 現在流通している衣料品の半数近くは、綿とポリエステルの混紡繊維で構成されています。綿は肌触りが良く吸水性に優れるという特性を持ち、一方でポリエステルは形崩れしにくく速乾性に優れるという利点を持っています。

 しかし、リサイクルにおいてはこの混紡という仕組みは異種素材の強固な結合に他なりません。マテリアルリサイクルにおいて重要な前提である単一素材化がなされていないため、ポリエステル繊維の中に綿やウール、ポリウレタンなどが混ざっている状態では、ペットボトル向けのリサイクル技術をそのまま適用することは事実上不可能でした。

 衣料品のリサイクルにおいて最も困難なのは、後段の再生プロセスよりもむしろ、前処理段階における正確かつ効率的な素材分別であり、これが繊維から繊維へのリサイクルを妨げる最大の技術的ボトルネックとして認識されてきました。

新たなブレークスルーとしてのマイクロ波加熱技術

 筆者らが目指したのは、これまでリサイクル不適物として扱われてきた複雑な混紡繊維を、いかにして簡便かつ効率的に分別し、資源として再定義するかという点です。そこで着目したのがマイクロ波を利用した化学反応の制御です。マイクロ波は電磁波の一種であり、家庭用の電子レンジと同じ原理で物質を内部から直接加熱することができます。

 電界中に置かれた加熱対象の分子は強制的に振動し、分子間衝突によって熱エネルギーが発生するため、外部から加熱する従来の手法に比べて迅速なエネルギー移動が可能です。この特性を生かすことで、数時間を要していた分解反応を大幅に短縮し、効率的に完結させることができます。

今回の技術の活用プロセス
今回の技術の活用プロセス[クリックで拡大]

 この迅速な加熱プロセスと、ポリエステルに対してのみ選択的に解重合反応を促進する触媒を組み合わせることが「混紡繊維の分別/リサイクル技術」の核となります。この独自の触媒は綿などの天然繊維には作用しないため、ポリエステル成分だけを効率的に分解しながら、もう一方は繊維の形態を保ったまま回収するというプロセスの構築に成功しました。

 この技術は、分別の難しさから焼却や埋め立てに回されていた膨大な衣料品を、再び高品質な化学原料と高品質な繊維素材へと生まれ変わらせるための、新しい資源供給の形を提案するものです。



 第2回では、本研究の根幹をなす綿とポリエステルの混紡繊維を対象とした具体的な分別プロセスの仕組みについて解説いたします。どのような原理でポリエステルが分解され、どのようにして高純度の原料が回収されるのか、その技術的な詳細と効率的な反応特性についてお伝えする予定です。

今回の技術で綿とポリエステルの混紡繊維から綿を取り出すことに成功
今回の技術で綿とポリエステルの混紡繊維から綿を取り出すことに成功[クリックで拡大]

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筆者代表紹介

大阪大学 大学院工学研究科 応用化学専攻 教授 宇山 浩(うやま ひろし)

大阪大学 大学院工学研究科にて、高分子化学を基盤とした持続可能な材料設計と資源循環技術の開発を推進している。主に高性能バイオプラスチックの開発に関する研究に従事しており、分子レベルでの構造制御を通じて、環境負荷を低減する新たな材料設計原理の構築を進めている。

他方で、マイクロ波を用いた混紡繊維の選択的分解技術に加え、廃棄プラスチック製品の再生技術など、物理的分別が困難な素材や廃材を有効な資源へと戻す社会実装研究にも幅広く取り組んでいる。持続可能な資源循環社会の形成に寄与することを目指し、国内外の企業との連携も積極的に展開している。


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