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水素を使用したチタン再生技術スポンジチタン廃材の再生技術(3)(1/3 ページ)

本連載では、大阪大学 接合科学研究所 教授の近藤勝義氏の研究グループが開発を進める「スポンジチタン廃材の再生技術」を紹介。第3回では、水素を使用したチタン再生技術について解説する。

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 第2回では、スポンジチタンの製造工程であるクロール法[参考文献1]による金属チタンの分離/精製過程において、不可避的な不純物成分である鉄(Fe)がスポンジ素材に混入すること、そしてFe成分が濃化する表層部は切除され、鉄鋼添加材として利用されている現状について紹介した。

 他方、Fe不純物を含むチタン合金に対して、適切な条件下で加工熱処理を施すことで、これまで厄介者とされてきたFe成分を強度向上に作用する有効な添加元素として活用できることを明らかにした。その製法の1つとして、従来のような溶解工程を伴わない完全固相状態でチタン合金を創製する粉末冶金プロセスを適用した。その結果、Ti-Fe焼結合金において、高強度と高延性が発現することを実証した。

 本研究では、前述した高濃度のFe不純物を含むスポンジ廃材から高強度チタン合金を再生する新たな資源循環製法の構築を最終目標とする。これを達成するための要素技術の1つが、高温状態からの冷却速度を適切に制御できる粉末冶金プロセスである。

 その一方で、同プロセスを用いて数十cmのスポンジ廃材からチタン合金を再生するには、出発原料となる廃材の塊を経済性よく粉末状態に粉砕加工する必要がある。一般に、純金属は柔らかく高い延性を有するため、粗大な塊を100μm未満の微細粉末に効率よく粉砕加工することは極めて困難である。

 言い換えると、被加工素材が脆ければ、比較的短時間の機械粉砕加工によって微細粉を得ることができる。ただし、粉砕加工性を向上するために元素を添加した場合、得られた粉末を焼結固化した素材にその元素が残存するため、成分規格を満たさなくなることや特性変化を伴うことなどの問題が生じる。

 そこで著者らは、金属の脆化現象を促す水素に着目した。チタンが水素成分を含む場合、Ti-H平衡状態図[参考文献2]に見るように脆い水素化チタン(TiH2)化合物を生成する。この化合物を起点に塊状チタン素材の粉砕加工性が向上し、所望の粒径を有するチタン粉末が得られる。

 その際、粉末中に存在するTiH2化合物の除去が必要となる。示差熱/熱重量同時分析(TG-DTA)を用いて、水素化合物の熱分解挙動を調査したところ、図1に示すように430℃付近から分解反応が始まり約800℃で終了し、また水素(H2)ガスとTiの反応は可逆的であることが分かる。熱力学データによれば、TiH2相は774℃で標準自由エネルギー変化がゼロ、つまりこの温度以上ではチタンと水素に分離し、それぞれ単体の状態で存在する[参考文献3]。

図1 市販の純Ti粉末とTiH<sub>2</sub>粉末のTG-DTA分析結果
図1 市販の純Ti粉末とTiH2粉末のTG-DTA分析結果[クリックで拡大]

 これは図1のDTA曲線において、2つの明瞭な吸熱反応が完全に終了する温度(約800℃)とほぼ一致しており、これらの吸熱ピークがTiH2の脱水素化(分解)反応を示唆することを裏付けている。このように複数段階を経るTiH2の熱分解による脱水素反応は既往研究[参考文献4、5]においても報告されている。

 以上の結果から粉砕後のチタン粉末中に含まれるTiH2化合物を構成する水素は、触媒等の特殊な手法を用いることなく、800℃を超える雰囲気での熱処理によって脱水素化反応が進行し、H2ガスとして試料系外に排出/除去できる。よって、塊状のスポンジ廃材から微細粉末を得る際、事前に水素雰囲気中での熱処理によって内部に脆いTiH2化合物を生成して粉砕加工性を改善し、得られたチタン微粉末を真空雰囲気中で焼結固化する過程において水素成分を除去するプロセスが廃材の再資源化を実現するための基本製法となる。

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