フィジカルAIやヒューマノイドに中堅中小製造業はどう向き合うべきか:中堅中小製造業の自動化 虎の巻(8)(2/2 ページ)
本連載では、自動化に初めて取り組む中堅中小企業の製造現場向けに協働ロボット、外観検査機器、無人搬送機にフォーカスして、自動化を成功させるためのポイントを解説する。最終回となる今回は、中堅中小企業の製造現場における将来展望などについて記述する。
中堅中小企業の製造現場における将来展望
本連載では、中堅中小企業の現状の製造現場を念頭に、将来のあるべき姿を見据えながらも、今できる、もしくはすぐに導入できる自動化機器やロボットについて、記述してきた。
当然のことであるが、既存の製造現場は人間を中心に、ヒトが働きやすいよう設計されている。自動化機器やロボットのパフォーマンスを最大限発揮させるためには、その現場環境を整えることが重要になる。
例えば、古い旅館が年数とともに建て増しを繰り返すうちに、部屋と部屋を長い廊下と上り下りの階段でつなぎ合わせた、複雑怪奇な構造になってしまったところにロボットを導入しても思うような成果が上がらないように、既存の製造現場へのロボット導入には限界があることは確かである。
そうした既存の製造現場に自動化機器やロボットを導入する場合は、これまで記述してきたように、できることをできる範囲で行ったり、レイアウトや設備の配置を変更したり、一部だけ思い切った自動化/ロボット化をするなど、さまざまな制約の中で実施していくことになる。
自動化機器やロボットのパフォーマンスを最大限発揮させる一番の解決策は、新たな工場を作ることなのだが、それには思い切った投資や膨大な手間と時間を要することでもあり、経営者も頭の中では分かっていることとはいえ、多くの中堅中小企業にとっては実現のハードルが極めて高い。
製造現場における「フィジカルAI技術」や「ヒューマノイド」の実装は、今後大企業の先進的な工場で、これまでの「部分最適」から環境(省エネ、暑さ対策、Well-Beingなど)を含めた「製造現場全体を最適化するスマート工場」の実現に向けた具体的な取り組みとして進んでいく。
そして、大企業の先進的な取り組みと成果を踏まえて、徐々に中堅中小企業の製造現場でも使える「フィジカルAI技術」や「ヒューマノイド」の活用が普及していくことになる。
会社全体で新しい技術に挑戦し続けるマインドを
とはいえ、「役立つロボット」でなくては現場では使ってもらえない。特に費用対効果にシビアな中堅中小製造業ではなおさらである。
確実に使える「信頼性」と「実用性」、そして「コストパフォーマンス」との兼ね合いがロボットを現場に導入するか否かの厳しい判断基準になるのは間違いないだろう。
ヒトの作業との比較、ヒトと違和感なく共存できるかなど、職場環境が大きく変化する構成要素があるため、経営者や現場責任者はもちろん、特にヒューマノイド導入になるとがぜん嫌悪感のボルテージを上げるであろう従業員の厳しい評価が待っている。
一方、人手不足や外国人労働者受け入れに消極的な職場では、このままでは会社自体が立ち行かないため、何とかしなければならないという焦燥感もあり、使えるロボットであればどんどん活用していこうという流れも増えていくだろう。
繰り返し作業や重量物の搬送など、ヒトがやらなくてもよさそうな労働がまだまだ数多く存在する職場環境の改善は長い間望まれていることでもあり、それが「フィジカルAI技術」や「ヒューマノイド」で解決し、かつ生産性も向上するのであれば導入にちゅうちょする理由はない。
職場環境が改善されれば、高齢者や女性従業員が製造現場でより一層活躍できる場も増えていくに違いない。そのことがリクルーティングにも反映され、地域で選ばれる企業となっていくだろう。効率性と人間性の調和(Well-Being)はこれからの時代の中堅中小製造業の未来像を再定義することにもつながる。
特に「ヒューマノイド」は、ヒトのようにさまざまな作業をこなせる汎用性が期待されており、既存の製造現場でヒトに代わってそのままヒトの作業を代替できるのであれば、人手不足に悩み、新たな工場を作る余力のない中堅中小企業にとって、救世主になる可能性が高い。
その実現までに、あと数年なのか、それ以上かかるのかは、現時点(2026年3月)では推測の域を出ないが、「ヒューマノイド」の誕生は大昔からのヒトの夢であり、人類のモノづくり史上最大のチャレンジの一つである。
メーカーやロボットSIerだけではなく、「ヒューマノイド」の活用は現場のユーザーにもチャレンジしがいのある機械であり、既存の製造現場の職場環境を一変させる可能性があることは間違いない。深刻な人手不足に加えて、米国の関税措置で利益が圧迫し始めれば、企業収益を高めるため、使える「ヒューマノイド」を活用して生産性向上を急ぐ生産現場も増えていくだろう。保守的な製造現場に「行動変容」を促す起爆剤にもなるかもしれない。
中堅中小企業の製造現場はメディアで頻繁に取り上げられる「フィジカルAI技術」や「ヒューマノイド」の情報に振り回され、不安になって右往左往するのではなく、将来、使える「ヒューマノイド」を使いこなすためにも、今から新しい機器や技術にチャレンジし続ける「マインド」を会社全体で共有し、企業文化へとつなげていく「マインドセット」の醸成を進め、新しい技術を活用することで「新たな企業価値」を生み出すことこそが重要であり、そのことが中堅中小製造業の未来を決める大きな要因となっていくだろう。(完)
まとめ
- 自動化機器やロボット導入に迷ったり、ちゅうちょしたりしてしまう理由は、企業の数だけある
- ロボットを導入・活用することで幅広い副次的な効果・効能が得られる
- ロボットの導入が会社の内外に及ぼす影響について充分考慮すること
- 「フィジカルAI技術」や「ヒューマノイド」の製造現場での実装は、大企業の先進的な取り組みと成果を踏まえて、徐々に中堅中小企業の製造現場でも普及していく
- 中堅中小企業の製造現場は「フィジカルAI技術」や「ヒューマノイド」の情報に振り回されるのではなく、今から新しい機器や技術にチャレンジし続ける「マインド」を会社全体で共有し、「新たな企業価値」を生み出すことこそが重要である
著者紹介
小林賢一
株式会社ロボットメディア 代表取締役
NPO法人ロボティック普及促進センター 理事長
2005年から20年間にわたりインフラ・プラント点検、建築施工、製造工場、介護・高齢者見守り、生活支援などの分野でロボット関連技術の調査、開発支援、実証実験、利活用、セカンドオピニオンに携わり、現在、ロボットビジネスに関するさまざまな相談に応対している。
ロボットビジネスのプレイヤーとして新たな活躍を目指すための講座(日本ロボットビジネス体系講座)や、与えられた「解」ではなく、自ら「解」を導き出し、収益につながるビジネスモデルをコーチングするワークショップ(ロボットビジネス・マインドリセット)を主宰。書籍「ロボットビジネスの全貌シリーズ」の監修、発行も行った。利害関係のない中立で公正な「ロボット・セカンドオピニオンサービス」や、異なる領域・用途にも利用可能な両用技術で既存事業と極限環境双方から収益確保を目指す研究会「ハイブリッドデュアルユース/ダブルインカム」などを実施。
ロボット産業創出推進懇談会 座長(2016〜2021年)
ロボット保険サービス 代表(2012〜2021年)
かわさき・神奈川ロボットビジネス協議会 事務局長(2011〜2015年)
ロボット実証実験実行委員会 委員長(2011〜2014年)
介護・医療分野ロボット普及推進委員会委員(2010〜2012年)など
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