「工場の自動化がうまく進まない…」その原因はどこにあり、何をすべきなのか:中堅中小製造業の自動化 虎の巻(1)(1/2 ページ)
本連載では、自動化機器の導入やロボットの活用に初めて取り組む中堅中小企業の製造現場向けに、昨今ニーズが高い協働ロボット、外観検査機器、無人搬送装置にフォーカスして、導入前(準備)、導入時(立ち上げ)、導入後(運用)の各ステップにおいて導入がうまくいかなくなる要因や、ユーザーが思い描くような自動化を進めていくためのポイントを解説する。
大企業、特に自動車やエレクトロニクス関連の製造現場では、産業用ロボットを中心に工場全体の完全自動化を見据えた協働ロボットや、無人搬送装置の導入が進んでいる。一方、中堅中小企業の製造現場では、自動化機器の導入やロボットの活用が期待されているほどうまくいっていないケースが散見される。
一体、その原因はどこにあり、どうすればうまくいくのか。
本連載では、自動化機器の導入やロボットの活用に初めて取り組む中堅中小企業の製造現場を想定し、その中でも特に要望が多い協働ロボット、外観検査機器、無人搬送装置にフォーカスして、導入前(準備)、導入時(立ち上げ)、導入後(運用)の各過程において自動化がうまくいかない要因を俯瞰すると共に、ユーザーが思い描くような自動化を進めていくためのポイントと勘所について解説する。
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留意点
昨今のAI(人工知能)技術の劇的進展とそれに伴うロボットシステムの進化を踏まえ、本稿では現時点でできることを中心に話を進めていく。
本連載で単に「ロボット」と記述する場合は、協働ロボットや状況に応じて自らの判断で対応できるサービスロボットを、「自動化機器」と記述する場合は、外観検査機器やAGV(無人搬送車)、AMR(自律型搬送ロボット)などの無人搬送装置を指す。
製造現場で求められていること
多くの中堅中小企業では、人手不足が深刻だ。さまざまな媒体に求人募集を出し、就活エージェント企業に多額の紹介料を支払っても優秀な人材が集まらない。工場の従業員の半数近くが、アジアをはじめとする外国人で占められる現場も見受けられる。
これまで培ってきた技術を次世代に承継し、事業を継続していくためには優秀な人材を確保し続ける必要があり、そのための給与アップも欠かせない。給与を上げ、従業員に長く働き続けてもらうためにも、より一層生産性の向上を図らなければならず、職場環境も改善し続けなければならない。
生産性の向上と人手不足解消/人材確保、技術の承継といった課題に対して、国や自治体もさまざまな施策を掲げており、DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進や自動化関連の支援を活用して、製造現場の生産性向上や業務改善に取り組んでいる経営者も多い。特にコロナ禍以降、経営の代替わりが進み、製造現場の自動化、ロボット活用に意欲的な若い経営者が増えている。
とはいえ、現状をおおまかに言えば、中堅中小企業の製造現場での自動化、ロボット活用はまだまだ始まったばかりであり、遅々として進んでいないともいえる。
自動化の段階的な導入
中堅中小企業の製造現場でよくありがちなのが、「生産性を向上させなければならない」との社長の一声で、現場担当者がSIer(システムインテグレーター)に急ぎ見積もらせたロボットを導入してしまうケースだ。
当然、ロボットを1台導入したからといって生産性がすぐに向上するということはなく、思うような成果が得られず現場は困惑してしまう。
製造現場でまず初めに取り組まなければならないことは、なぜ製造現場の自動化やロボットの活用が必要なのか、それによってどのような効果/効能が期待され、どのくらい収益に結び付き、どんな新たな価値が生まれるのかを考えることだ。
そして、最終的に企業や製造現場がどのような姿になりたいのか、そのためにどのような段階を踏んでいけばいいのかといった青写真を描く必要がある。目先のことにこだわるのではなく、将来目指すべき理想の姿に至る道筋を経営者、製造現場の責任者などが真摯に議論し、それを共有しなければならない。
“そんなことは当然やっているはず”と思う読者も多いかと思うが、実際はそれらの共有がないがしろにされたまま、経営者の独断や現場任せの行き当たりばったりで、自動化機器やロボットを導入しているケースが実に多い。
数千万円の費用をかけてロボットシステムを導入したのに、実稼働がうまくいかずに宝の持ち腐れになっていたり、途中で運用を断念してその後の自動化機器導入のトラウマになってしまったりしている現場もある。
時間と労力とお金がムダにならないために製造現場の自動化は何を目指し、どのように進めていけばいいのかを考えてみたい。
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