「工場の自動化がうまく進まない…」その原因はどこにあり、何をすべきなのか:中堅中小製造業の自動化 虎の巻(1)(2/2 ページ)
本連載では、自動化機器の導入やロボットの活用に初めて取り組む中堅中小企業の製造現場向けに、昨今ニーズが高い協働ロボット、外観検査機器、無人搬送装置にフォーカスして、導入前(準備)、導入時(立ち上げ)、導入後(運用)の各ステップにおいて導入がうまくいかなくなる要因や、ユーザーが思い描くような自動化を進めていくためのポイントを解説する。
段階的な導入の流れ
製造現場の自動化は大きく分けて4つの段階がある。既存施設での自動化の場合は通常、個別工程の自動化から始まり、施設全体の最適化を目指す。(図2)
- 個別工程の自動化/改善
工程の一部にロボットや外観検査機器(カメラ)などを導入する段階。初期費用を抑え、部分的な自動化を行う。同時に将来の完全自動化を見据えた人材の確保を進める。
- 個別ラインの自動化
一部人手に頼っていた個別のラインにロボットや自動化機器を導入することで、個別のラインをほぼ自動化する段階。人員の配置転換も行われる。
- 既存全ラインの自動化
生産ラインのデジタルデータがネットワークでつながり、協働ロボットや無人搬送機などが連携し、工場内物流システムも自動化、または半自動化(遠隔管理/制御)になるなど、デジタル統合管理の一体化が進む段階。人員の再配置も行われる。
- 施設全体の最適化(スマート工場や自律型工場)
リアルタイムの可視化やネットワークセキュリティなども一元管理され、作業の効率化(削減/短縮)や省人省力化が極限にまで高められ、施設全体が高度に最適化された段階。デジタルツインで施設全体を仮想空間上に再現し、AIを組み合わせることで人が介入せずとも改善を続ける「自律型工場」につながっていく。AIやロボットをマネジメントする人材の確保が重要になる。
将来ビジョンの策定
中堅中小企業の製造現場では、「個別工程の自動化/改善」または「個別ラインの自動化」が優先事項(中心)になるかと思う。しかし、製造現場の自動化やロボットを導入する場合に最初に取り組むべきことは、将来のビジョンであり、そこに至る段階的な流れを経営者だけでなく、現場を含めた関係者全員で共有し、共有した目標に向かって皆で進んでいくことだ。
特に注意したいのは、最初から細かなことにこだわりすぎないということだ。製造や技術部門の担当者は、仕事柄かどうしても細かいことにこだわるあまり、まるで仕様書や発注書のような資料を作りがちである。
もっと大きな視点から会社や工場が今後目指すべき姿を、誰が見ても一目で分かるように、共有できる「将来ビジョン」として描く必要がある。
また、関係者間で将来ビジョンを共有するコンセンサスができたとしても、人間はすぐに忘れてしまうため、関係者間で自動化の進捗状況と将来ビジョンを定期的に確認しあうことが重要だ。
柔軟な現場対応力を身に付ける
工程によっては技術的な困難さからすぐには自動化できず、技術の進展を待つ必要がある場合もあるだろう。
特にAIは劇的な進化の真っ最中であり、今できないことが半年後には可能になる、ということもあり得る。AI技術の進展はロボットのシステムにも関連するため、今後ロボットができる物理的作業にも影響が出てくるだろう。
そのため、はじめはあまり無理(特に価格面)せず、自動化機器やロボットが今できることをできる範囲で、段階的に導入していくことが基本になる。
製造現場での自動化/ロボット活用の流れは技術の進展とともに重要性がより増していくことは間違いなく、まずは現場が施行錯誤しながらも自動化機器やロボットの扱いに慣れることが重要だ。
そして、こなれたころにはまた新たな技術の進展がなされるので、その時に備えた柔軟な現場対応力を今から身に付けていくのだ。
そのためには、日常の業務に慣れきった工場内のムラ意識を、新たな時代の変化に柔軟に対応させ、チャレンジし続けるマインドに変えていく「マインドリセット」が何より肝要なのだが、それについては次回以降で詳しく述べていきたいと思う。
今回のまとめ
- 人手不足が深刻な中堅中小企業において、製造現場の自動化/ロボット活用はまだまだ始まったばかりであり、遅々として進んでいないともいえる
- 製造現場の自動化は大きく分けて4つの段階がある。将来ビジョンを経営者、製造現場の担当者など関係者間で共有する。はじめは無理(特に価格面)をせず、自動化機器やロボットが今できることをできる範囲で、段階的に導入していく
- 製造現場での自動化、ロボット活用の流れは技術の進展とともに重要性がより増していく。柔軟な現場対応力を今から身に付けていく必要がある
次回(第2回)は、製造現場で最も求められている生産性向上について、そのポイントと評価の基準、費用対効果などについて、具体的な数値を含め述べていく。 (次回へ続く)
著者紹介
小林賢一
株式会社ロボットメディア 代表取締役
NPO法人ロボティック普及促進センター 理事長
2005年から20年間にわたりインフラ・プラント点検、建築施工、製造工場、介護・高齢者見守り、生活支援などの分野でロボット関連技術の調査、開発支援、実証実験、利活用、セカンドオピニオンに携わり、現在、ロボットビジネスに関するさまざまな相談に応対している。
ロボットビジネスのプレイヤーとして新たな活躍を目指すための講座(日本ロボットビジネス体系講座)や、与えられた「解」ではなく、自ら「解」を導き出し、収益につながるビジネスモデルをコーチングするワークショップ(ロボットビジネス・マインドリセット)を主宰。書籍「ロボットビジネスの全貌シリーズ」の監修、発行も行った。利害関係のない中立で公正な「ロボット・セカンドオピニオンサービス」や、異なる領域・用途にも利用可能な両用技術で既存事業と極限環境双方から収益確保を目指す研究会「ハイブリッドデュアルユース/ダブルインカム」などを実施。
ロボット産業創出推進懇談会 座長(2016〜2021年)
ロボット保険サービス 代表(2012〜2021年)
かわさき・神奈川ロボットビジネス協議会 事務局長(2011〜2015年)
ロボット実証実験実行委員会 委員長(2011〜2014年)
介護・医療分野ロボット普及推進委員会委員(2010〜2012年)など
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