フィジカルAIやヒューマノイドに中堅中小製造業はどう向き合うべきか:中堅中小製造業の自動化 虎の巻(8)(1/2 ページ)
本連載では、自動化に初めて取り組む中堅中小企業の製造現場向けに協働ロボット、外観検査機器、無人搬送機にフォーカスして、自動化を成功させるためのポイントを解説する。最終回となる今回は、中堅中小企業の製造現場における将来展望などについて記述する。
これまでの連載で、自動化機器やロボットを導入する際の課題やその解決策、注意事項とともに、新しい機器や技術にチャレンジし続ける「マインド」を会社全体で共有し、企業文化へとつなげていく「マインドセット」の重要性について述べてきた。
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今回は、自動化機器やロボット導入に迷ったり、ちゅうちょしたりしてしまう主な理由とロボット導入による副次的な効果/効能、そして中堅中小企業の製造現場における将来展望について記述する。
また、メディアで最近頻繁に取り上げられる「フィジカルAI技術」※や「ヒューマノイド」に対する心構えにも触れる。
※ 「フィジカルAI」がロボットや自動運転車のみならず、今後、設備やインフラなどの現実空間で幅広く活用されていくことを踏まえ、本稿では「フィジカルAI技術」としている
留意点
昨今のAI(人工知能)技術の劇的進展とそれに伴うロボットシステムの進化を踏まえ、本稿では現時点でできることを中心に話を進めていく。
本連載で単に「ロボット」と記述する場合は、協働ロボットや状況に応じて自らの判断で対応できるサービスロボットを、「自動化機器」と記述する場合は、外観検査機器やAGV、AMRなどの無人搬送機を指す。
自動化機器やロボット導入に迷い、ちゅうちょしてしまう理由
現状以上の生産性向上や省人化を考えた場合、製造現場の自動化やロボットの活用に興味のない経営者や製造部の担当者はいないと思う。それにもかかわらず、中堅中小企業の製造現場で自動化機器の導入に迷ったり、ロボット活用をためらったりしてしまう理由は何なのだろうか。
主に以下のような理由が考えられる。
- 自動化機器をインターネットで調べたり、展示会を見に行ったりしているが、技術的に似たり寄ったりなものが数多くあり、どれにしたらいいのか判断がつかない
- ロボット本体の価格で自動化の予算を組んでみたものの、実際はシステム設計や周辺機器を含めると予算をはるかにオーバーしてしまった
- 協働ロボットを導入してみたものの、当初思い描いていたようなパフォーマンスではなかったため、協働ロボットはいつの間にか倉庫でほこりをかぶっていた
- 現場担当者の退職に伴い、自社内で作業手順の変更さえままならなくなり、他社頼みになってしまった
- 自動化機器を導入するごとにシステムインテグレーター(SIer)に頼ってきたが、ロボットSIerではなかったため、ロボット導入後の微調整に時間を取られ、現場担当者の負担ばかりが増えた
などなど、うまくいかなかった要因は、企業の数だけあるともいえる。
経営者や人事/総務担当者によく考えてほしいことは、自動化機器、特にロボットの導入が会社の内外に及ぼす影響についてである。
ロボットを1台導入しても現場の生産性に対して影響はないと感じるかもしれない。しかし、ロボットを導入することで間接的には次のような幅広い副次的な効果/効能が期待できる。
自動化機器/ロボット導入の主な副次的効果/効能
生産面
- 長時間(24時間365日)稼働や夜間稼働ができる
- 省人化/省スペース化
- 作業の専有面積が削減でき、ラインの安定稼働や省スペースにつながる
- 自動化に伴い対象工程を見直すことで競争力を強化できる
- ロボット導入の対象工程だけでなく、ライン全体の業務をゼロから見直すことで競争力を一層強化できる
- 作業者の負荷軽減や労力の低減
- 特にヒューマンエラーを削減できる
- 業務見直しによる作業の効率化/稼働率の向上
- 作業効率アップで生まれた時間を商品力の向上などに使い、ブランド価値を高められる など
品質面
- 品質が均一化されて安定する
- コスト削減だけでは現場から反発が出るが、品質の向上は現場にも受け入れられる
- 毛髪などの異物混入リスクを低減でき衛生管理が向上する など
人事/労務面
- 従業員を解雇することなく、新たな職種へ配置転換ができる
- 社員の意識改革や新規事業/高付加価値業務への人員配置
- 従業員の満足度や働く意欲が向上する
- 人手不足が解消され、優秀な人材の確保にもつながる
- 技能者の退職への備えや職人技の数値化による技能の継承にも役立つ
- PR効果(メディアに取り上げられる。SNSで情報が拡散するなど)
- 他社との差別化となり、新規営業先を開拓することにつながる
- 会社や工場の知名度が上がる
- 社員採用での関心度が向上し、新入社員や優秀な技術者の応募・獲得につながる
- 人件費(残業代など)や採用費(見えない間接費)を抑制できる
- 職場環境が改善される
- メイン作業はロボットに任せ、ヒトの作業は材料補充と機械保守などになることで負担が軽減される=従業員の体のケアやWell-Beingにつながり、従業員のケガが減る
- 重労働イメージを払拭できる
- 離職率を下げる1つの解決策になる
- 従業員の教育時間を短縮できる
- 従業員の新たな仕事の可能性とスキルへの扉を開く
- 人的スキルに基づく新たな評価制度 など
データ活用
- カメラ画像などの記録が残せる
- 人間の感覚に頼っていた部分を数値化できる
- データ収集分析/マーケティング/商品開発
- データはクラウドで保存されるため、ロボットが壊れてもデータは失われない
- ロボットの活用ノウハウを蓄積できる
- ロボットの使い勝手、費用対効果、ヒトとロボットとの協働による現場オペレーション など
感染症対策
- 感染防止:非対面/非接触(コンタクトレス)、遠隔管理 など
その他
- 自分の仕事の取組み方や将来像、職場の未来を考えるきっかけになる など
このように、ロボットを導入/活用することによる多様で幅広い副次的な効果/効能が得られるのだが、中堅中小企業の製造現場は多品種少量生産での単価数円を巡る製品の納品に日々追われ、計画通りの納品に確実に応えることに慣れてしまい、多くの企業が大局的にものごとを考えるトレーニングを積んでいない。
そのため、すぐに収益に直結せず、数値に表せない間接的な効果/効能については、いくら説明しても説得力を持ち得ない現場も多い。
それでも中堅中小企業の製造現場の将来を考えた場合、自動化やロボットの導入による効果/効能は、直接/間接的なものを含め、確実にあることを経営者、人事/総務の担当者はよくよく考えてほしいと思う。
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