「自動化しよう。でもどの製品にすれば……」 必要な導入前準備とマインド設定:中堅中小製造業の自動化 虎の巻(3)(1/2 ページ)
本連載では、自動化に初めて取り組む中堅中小企業の製造現場向けに協働ロボット、外観検査機器、無人搬送機にフォーカスして、自動化を成功させるための導入前(準備)、導入時(立ち上げ)、導入後(運用)におけるポイントを解説する。今回は、自動化機器/ロボットシステムを導入する前に行っておくべき事柄(導入前準備)について説明する。
前回(生産性向上とロボット導入)は、製造現場で最も求められている生産性向上について、そのポイントと評価の基準、費用対効果などを具体的な数値を含めて述べた。
今回は、自動化機器/ロボットシステムを導入する前に行っておくべき事柄(導入前準備)について記述する。
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留意点
昨今のAI(人工知能)技術の劇的進展とそれに伴うロボットシステムの進化を踏まえ、本稿では現時点でできることを中心に話を進めていく。
本連載で単に「ロボット」と記述する場合は、協働ロボットや状況に応じて自らの判断で対応できるサービスロボットを、「自動化機器」と記述する場合は、外観検査機器やAGV(無人搬送車)、AMR(自律型搬送ロボット)などの無人搬送機を指す。
インターネットや展示会だけでは分からない
製造現場での自動化やロボットの導入を考えた場合、ほとんどの人はまずはインターネットを通して製品情報などを調べると思う。
インターネット上にはあらゆる情報が載っており、短時間で多くの製品について調べることができる。非常に便利である半面、情報が多すぎて実際どの製品が自社の現場に適しているのか判然とせず、本当のところが分からないまま、迷ってしまうことも多い。
この時点では、必要な製品のイメージをおぼろげながらに把握している段階といえる。
そこで、担当者は展示会に出向いて、さまざまなブースを見て回り、あらかじめ目をつけていた製品の実物を確かめたり、他の製品や新しい製品などと比較したり、メーカー担当者に直接話を聞くなどして、徐々に自社の現場に導入する製品を絞り込んでいく
ところが、いざ機器導入の選定をしようとする段階になって、足踏みしてしまうことも多い。なぜ、そうなってしまうのだろうか。
製品の価格や機能面などに迷い、導入をちゅうちょしてしまうなど理由はいろいろ考えられるが、一番の問題は製造部の担当者が自動化やロボットの導入の経験がない、あるいは浅いため、自社の現場に適した製品が何なのか確固たる自信を持てないことにあると感じる。
製造現場にはすでに多くの機械が導入されているが、それらのほとんどは工作機械などの「装置」である。「装置」のほとんどは既に技術的には確立された機械であり、できる作業も明確で、いわば間違いのない代物だ。
一方、AI外観検査機器や協働ロボット、無人搬送機などは製品化されたのもここ数年のことであり、日々の技術革新も激しい、いわば発展途上の製品だ。
出来上がった「装置」や「道具」の購入に慣れてしまった現場担当者が自社に適した発展途上の製品を選択するのは非常に難しいと感じる。では、どうすればいいのか。
行政コーディネーターは使えるか
地域ごとに産業やモノづくりの支援団体(○○産業支援財団など、その多くが行政の外郭団体)があり、そこには企業の各種相談やマッチングなどを行う専門家(専門コーディネーター)がいる。
そうした窓口に相談する企業担当者も多いと思うが、専門コーディネーターのほとんどは、大手企業の技術部や工場の製造部などにいた経歴の持ち主が多く、これまでの成功体験をベースに活動している。
そのため、「装置」の導入や「道具」の製作、作業のカイゼンや職場環境の安全対策(5S活動)についての経験値はあるものの、自動化機器やロボットに関する知見を持ち合わせていないことも多い。
技術的なバックグランドが異なることに加え、AIやロボットなどの「解(答え)」のない先進技術に取り組む姿勢、新たなことにチャレンジし続ける「チャレンジングマインド」を持ち合わせているかどうかは、知る由もない。
行政コーディネーターにもいろいろな人たちがいる。その分、にわか仕込みで取り繕った専門家も多い。
外資系コンサルは使えるか
金融や経営、マーケティングをはじめあらゆる分野に○○コンサルタントは存在する。最近はコンサルタントを目指す若者も多く、大学を卒業していきなりコンサルタントとして稼業する人もいる。
10年ほど前のロボットブームの時もいきなり自称ロボットコンサルタントと名乗る輩や企業が出てきて、ずいぶん暗躍していたものだが、ブームが去るといつの間にか消えたり、突然、AIコンサルや宇宙コンサルになったりしていた。
一般的に外資コンサルタントや広告代理店のコンサルタントは大企業をメインの顧客にしているので、中堅中小企業に単体の自動化機器やロボットの話(個別工程の自動化、改善)を持ち掛けることは少ないと思うが、「自動化の段階的な導入の流れ」(第1回)で記述した「既存全ラインの自動化」(デジタルデータの統合管理含む)や「施設全体の最適化」(スマート工場や自律型工場)の段階では、接触する機会も出てくると思う。
彼らは総じてプレゼン上手で、美しく分厚い資料を用意する。料金は(その内容に比べ)当然のごとく高い。そして、ブームに乗り、変節も早い。
ある時はロボットであり、AIであり、宇宙であり、DXであり、半導体であり……。そこに、「解」のない物事に本気で取り組む「チャレンジングマインド」を持ち合わせているコンサルタントがどれほどいるのか。
AIやロボットなどの「解」のない先進技術に本気で取り組む「チャレンジングマインド」を持つ専門家に巡り合えば、自動化機器やロボットの導入の道はおのずと開かれていくだろう。
筆者が所属するNPOでは、利害関係のない中立で公正なロボットビジネス適正診断「製造現場に特化したロボット・セカンドオピニオンサービス」を提供している。自動化機器やロボットの導入で迷ったり、悩んだりした際はぜひ相談してほしい。
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