「マツダの本気」が日本製鉄を動かした、鋼板調達の新モデル:ITmedia Virtual EXPO 2026 冬 講演レポート(2/2 ページ)
マツダは、日本製鉄との共創で取り組んだ調達の革新により、新型「CX-5」における鋼材重量とコストの削減を実現した。本稿では、「ITmedia Virtual EXPO 2026 冬」において、「マツダが挑むサプライチェーン構造変革」と題して行われた講演の一部を紹介する。
クルマ1台分の発注でボディー構造を変更
調達単位の変更については、従来の価格競争型かつ部品ごとの個別発注をやめ、クルマ1台分を集約発注する手法へと切り替えた。集約発注の利点は、鉄鋼メーカーが持つ高度な素材の知見を、クルマ全体の構造づくりから反映できることにある。部品単体でのコストダウンには限界があるが、車両全体を俯瞰できれば「この部位にこの高張力鋼板を使えば、周辺の部品点数を減らせる」「全体の構造をこう見直せば、トータルの重量とコストを下げられる」といった、全体最適を目的とした本質的な技術提案が可能になるからだ。
具体的には、マツダが推進するモデルベース開発(MBD:Model Based Development)に、日本製鉄の次世代鋼製自動車コンセプト「NSafe-AutoConcept ECO3」を融合させた。これにより部品点数の最小化を図るとともに、日本製鉄が開発した高曲げ型2.0GPa級ホットスタンプ鋼板をバンパーレインフォースに採用するなどの工夫を行い、鋼材重量を前モデル比で10%削減。コストも同程度の削減結果を達成した。両社の技術を掛け合わせてトータルコストを引き下げ、最も無駄のないボディー構造を作り上げることに成功したのである。
商品企画段階からの参画でコスト削減を達成
マツダは今回、従来よりも大幅に早い段階で発注を決定し、鋼板メーカーに開発へ参画してもらう体制へと改めた。以前はデザインが決定した後に鋼板メーカーが加わっていたが、これをデザイン前の商品企画の段階へと前倒ししたのである。スペックが固まる前から共に検討を重ねることで、先述した集約発注の効果を最大限に引き出せるようにした。さらに、その先の工程を担うプレス部品メーカーにも、デザインの段階から参画してもらうことが可能となった。
こうした上流工程からの協調により、手戻りや無駄な工数が減少し、サプライチェーン全体でのコスト削減が実現した。また、日本製鉄側でも生産拠点の検討を早期に進められるようになったたことで、マツダ拠点に近い場所での生産が可能となり、輸送コストを削減するという副次的な効果も生み出している。
日本製鉄を動かした「マツダの覚悟」
鷲見氏によると、この「買い方変革」の構想を最初に持ちかけた際、日本製鉄側からは「マツダは本気なのか?」と半信半疑の反応があったという。しかし、マツダの熱意を伝えると、「すぐに技術者を送り、検討を開始する」との快諾を得て、両社の共創活動がスタートした。この取り組みの第1弾となる成果は、2025年7月に世界初公開された新型クロスオーバーSUV「MAZDA CX-5」に早くも織り込まれている。
定量的な効果以上に、鷲見氏が「実はこれが一番大きな変化だったかもしれない」と語るのは、現場の視点の変化であった。マツダ側は「必要な材料を選定する」という従来の考え方から「材料のポテンシャルを徹底的に使い切る」という視点へとシフトした。日本製鉄側も、「鋼板の性能を進化させる」という素材メーカーの枠組みを超え、「クルマの性能を引き出すために鋼板はどうあるべきか」を考えるようになったという。
一方で課題もある。特定のメーカーと深く結び付くことで、他の鋼板メーカーへの配慮がこれまで以上に必要となり、他社からの最新技術情報が収集しにくくなるといったリスクも抱えることになった。こうした痛みを伴うことを認めつつも、鷲見氏は「真の変革を成し遂げるには、何かを犠牲にする覚悟が必要。会社として覚悟を決め、やり切る熱意を持って進めなければならない」と語った。
今回のサプライチェーン構造改革を通じて、両社は発注側と受注側という従来の力学関係を超えた共創を実現した。鷲見氏は、「従来の手法にとらわれない共創活動を推進することで、スモールプレイヤーであっても十分に競争力のある製品開発ができる」と語り、生き残りを賭けた今後のモノづくりの在り方を示した。
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