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なぜ「最新の優れた技術」が現場で使われないのか必要とされるモノづくりの追求(1)(2/2 ページ)

連載「必要とされるモノづくりの追求」では、研究開発と実際の現場/ユーザーとの間に生じるギャップを整理しながら、技術の価値をどこに置くべきかを問い直し、必要とされるモノづくりの在り方を考察する。第1回は、「最新の優れた技術」がなぜ現場で使われないのかをテーマに、その背景を筆者の経験を通して掘り下げる。

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技術の評価と現場の評価はなぜズレるのか

 研究開発やモノづくりに携わる方であれば、似たような経験をされたことがあるのではないでしょうか。技術としては評価され、新規性もあり、結果も良好です。使用者のために開発したものが、いよいよ社会に実装される――。そんな期待や夢を抱きながら、皆がモノづくりに没頭しています。

 しかし、実際の現場ではなかなか使ってもらえません。どれだけ展示会や営業でアピールし、良い評価を得ても、導入にはつながらないことがあります。あるいは一度導入され、使ってもらえたとしても、時間がたつとほとんど使われなくなってしまうことも珍しくありません。

 では、なぜ使われないのでしょうか。多くの場合、その原因は技術の優劣ではありません。作り手の努力の方向と、使用者が使いたいと思う方向との“ギャップ(ズレ)”にあります。

 研究開発の現場では、「より高性能に」「より高精度に」「より新しく」という価値観が自然と共有されます。これは工学やモノづくりの世界では極めて健全で、必要不可欠な姿勢です。私自身も性能向上や新規性の検討に多くの時間を費やしてきました。しかし、その価値観をそのまま現場や実際に使用するユーザーへ持ち込んでしまうと、思わぬギャップが生じることがあります。

 実際の生活の中では、工学的な最適解よりも別の要素が優先される場面が多くあります。例えば装着型ロボットの場合、装着に時間がかからないこと、準備が簡単であること、周囲の視線が気にならないこと、装着感、そして費用も重要です。こうした要素は研究発表の場や展示会ではほとんど語られませんが、日常生活では極めて重要になります。

 腰痛予防を目的とした腰に装着するタイプの装着型ロボットも大変魅力的で、使われている現場もあるようです。しかし、看護や介護の現場ではなかなか導入されていません。看護師に理由を尋ねると、「一刻を争う中でいちいち装着していられない」「入浴介助の時にいちいち外さなければならない」といった現場ならではのリアルな声が返ってきました。展示会のような場所で披露される最新ロボットの高い技術力と、現場で求められるニーズとの間には、やはり大きな差があるのだと実感しました。

技術の価値を、どこに置くのか

 モノづくりを行っていると、われわれは無意識のうちに生活上の課題を工学的な課題へと置き換えてしまいます。本来は例えば「転倒が怖い」「外出を諦めたくない」「人に迷惑を掛けたくない」といった感情や生活に根ざした課題であったはずが、いつの間にか「関節角度を何度補正するか」といった数値目標や「あの機能やこの機能も追加しよう」といった新規性そのものが目的になっていきます。

 こうした変換は研究開発としては正しく、必要なプロセスです。しかし、その工学的課題が現場で使用される最終的な目的になった瞬間、現場との距離は確実に広がります。その結果として生まれるのは「正しく作られたが、必要とされていない技術」です。これは失敗ではなく、研究開発としては成功と評価される場合も少なくありません。だからこそ、この問題は繰り返されやすいのです。

開発現場と使用現場のギャップ。開発者は最新、完成度、多機能を重視するが、使用者はコンパクト、価格、見た目、機能面を重視する
図3 開発現場と使用現場のギャップ。開発者は最新、完成度、多機能を重視するが、使用者はコンパクト、価格、見た目、機能面を重視する[クリックで拡大] (※iStock/gorodenkoff、prpicturesproduction)

 私自身、かつては「現場が技術の価値を十分に理解していないのではないか」と感じたこともありました。しかし今では、その考え方自体が研究開発側の視点に強く偏っていたのだと考えています。現場が理解できないのではなく、こちらが現場のリアルな声に十分耳を傾けていなかったのだと気付いたのです。

 本連載では、研究開発と実際の現場(ユーザー)の間に生じるこうしたギャップについて整理していきます。技術の価値を疑うのではなく、その置き場所を問い直すこと、すなわち誰の生活のどの場面にその技術を置こうとしているのかをあらためて考えることが重要です。そこから、必要とされるモノづくりが始まります。モノづくりは、ニーズ(需要)とシーズ(供給)が重なったときに初めて価値を持ちます。

 第1回では、「最新の優れた技術が現場で使われない」という現象を、研究者自身の経験を通して捉え直しました。

 次回は、「現場を理解したつもりになる」ことがなぜこれほど危険なのかについて、さらに具体的な場面を交えながら掘り下げていきます。 (次回へ続く)

⇒ 連載バックナンバーはこちら

筆者プロフィール

伊丹 琢(いたみ たく)
明治大学理工学部電気電子生命学科 専任講師
スマートメカトロニクス研究室(伊丹研究室)主宰

伊丹琢氏

1992年生まれ。2020年に博士号(工学、三重大学大学院工学研究科)を取得。2020年4月から2024年3月まで青山学院大学理工学部で助教を務め、2024年4月から明治大学理工学部電気電子生命学科に着任し、スマートメカトロニクス研究室(伊丹研究室)を主宰する。2022年4月から岐阜大学大学院医学系研究科博士課程(社会人・リハビリテーション学)に在籍。医療・福祉デバイスを中心とした、「現場で本当に必要とされる技術」を志向した研究開発に取り組む。

また、若者たちが輝ける未来社会を実現することを重要な使命と捉え、教育・社会連携活動にも積極的に取り組む。地方自治体や企業と連携した「学生未来プロジェクト」や「未来イノベーションプロジェクト」を立ち上げ、学生が実社会の課題に向き合いながら、研究開発・実証・発信までを経験できる教育研究プロジェクトを多数推進。企業・医療機関との共同研究、展示会への出展、地域社会との連携活動などを通じて、研究成果を社会に開く実践的な場づくりを行う。

⇒ スマートメカトロニクス研究室|伊丹琢|明治大学|神奈川県


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