装着型運動アシストロボットのAI駆動型制御手法を開発:医療技術ニュース
理化学研究所は、装着者の身体運動情報と一人称視点の映像から、装着型運動アシストロボットの制御コマンドを生成するAI駆動型制御手法を開発し、ヒトの運動負荷を適切に軽減できることを実証した。
理化学研究所は2025年6月11日、装着者の身体運動情報とウェアラブルカメラの一人称視点映像から、装着型運動アシストロボットの制御コマンドを生成するAI(人工知能)駆動型制御手法を開発したと発表した。
装着型運動アシストロボットを日常生活で使用する場合、装着者の意図を読み取って周囲の環境に対応し、さまざまな動作を柔軟に実行する必要がある。従来の生体信号情報として筋電図を活用する手法は、装着者の意図を高精度に推定できるが、一方で生体信号情報を取得するためのセンサーの取り扱いに高い専門性が必要となる。
今回の研究では、センサーを使用せずに装着者の動作意図を推測し、環境に適応して動作できる装着型運動アシストロボット技術の開発を目指した。
研究チームは、装着型運動アシストロボットが装着者の意図を推測する情報源として、装着者の周囲環境を捉えた一人称視点の映像と装着者の関節角度や角速度、胴体部の回転運動情報を入力した。これらの情報を基に、AIモデル「Transformer」をベースとした深層学習モデルから、アシストロボットの制御コマンドを出力するアシスト動作生成手法を開発。独自開発中の装着型運動アシストロボットを用いて2段階の実験で検証した。
第一段階では、データ取得と提案手法モデルの学習をした。まず、アシスト動作を制御しない状態で、装着者に歩行や床にあるものを拾う、段差を上るといった複合動作をしてもらい、その際の一人称視点映像、関節角度、角速度などの身体情報を計測した。また、動作中にアシストが必要、あるいは不要と感じた区間について、装着者がボタン操作することでラベル付けした。そして、これらのデータセットを用いて、提案手法モデルを学習させた。
第二段階では、第一段階で学習したモデルによる提案手法を装着型運動アシストロボットに搭載し、リアルタイム制御による動作支援実験として、第一段階と同様の歩行や段差上りなどの複合動作をすることで手法の有効性を検証した。動作支援に関しては、装着者の筋活動と心拍の計測結果で評価し、ロボットの精度は従来手法と比較して検証した。
その結果、提案手法による装着型運動アシストロボットで支援した場合は、支援がない場合と比べて装着者の筋活動量が軽減することが示された。このロボットシステムを別の装着者に適用したところ、同様に筋活動量が軽減したことから、制御モデルが他者に対しても高精度な適用力を持つ可能性が示された。
今回開発した手法により、装着型運動アシストロボットの自律的な制御技術が向上し、同ロボットを日常生活で容易に活用できるようになることが期待される。
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