抽出の基本原理:はじめての化学工学(16)(2/2 ページ)
前回に取り上げた「蒸留」に次いで、頻繁に行われる分離操作が「抽出」です。主に液液抽出を取り上げて、基本原理について解説します。
液液抽出装置の種類
実験室の規模では、ビーカーや分液漏斗、漏斗を用いて抽出操作します。規模の大きな工業的な抽出装置は、液と液をいかに効率よく接触させ、連続的に分離できるかが鍵となります。今回は特に多く用いられる液液抽出に関する装置を紹介します。大きくは撹拌(かくはん)槽型のミキサーセトラーと抽出塔の2種類の液液抽出装置が選択されます。
ミキサーセトラーは、撹拌機で液を混ぜる「ミキサー部」と、静置して比重差で分離させる「セトラー部」から成る装置です。ミキサー部で撹拌機を使って液滴を細かく分散させ、成分の移動を急速に進めます。混合液はセトラー部へ流れ込み、時間をかけて重い液と軽い液の2層に分かれます。混合と分離が独立しているため、1段の抽出効率が高く、スケールアップの設計も比較的容易なメリットがあります。一方で、抽出性能を上げるために多段抽出を行うには、設置面積が大きくなるデメリットがあります。
抽出塔は、塔の中で比重の大きな液と小さな液を向流(逆向き)に流して接触させる装置です。ミキサーセトラーが「横」に並べる装置で、抽出塔は「縦」に長い塔を使って省スペースで抽出を行える装置です。塔の内部構造によって分類され、多孔板塔、充填塔、スプレー塔などがあります。連載第14回で取り上げた蒸留塔の構造にも似ています。
抽出溶剤の選定基準
抽出の成否を左右するのは、使用する溶剤(抽剤)の選定です。適切な溶剤を選ぶことで、経済性を確保しながら分離効率を向上させます。主には選択性(分離係数)、抽質の溶解度、溶剤同士の分離性、蒸気圧で評価します。その他に、毒性、引火性、腐食性が低いこと、環境への負荷が小さいことも工業的に利用する上での重要な判断基準となります。
抽剤には目的成分(抽質)だけを特異的に溶解し、原料液中の他の成分は溶解しにくい性質が求められます。これが選択性です。また目的成分を多量に溶解できるものを選びます。溶解度が高いほど、必要な溶剤の量を減らすことができ、後の溶剤回収工程の負荷を軽減できます。
抽出による分離は、最後に溶媒を蒸発して取り除く必要があります。低い蒸気圧を持つ溶剤は、蒸発に必要なエネルギーを抑えられ運転コストの削減/CO2排出量の削減につながります。同様の観点で、溶剤自体が安価で、安定して供給されることも重要です。
終わりに
今回は、分離操作の1つである「抽出」の基本原理について、液液抽出を中心に解説しました。加熱が必須ではない操作のため、熱に弱い成分にも適用できます。さらに温度上昇を待たなくて良いことから、一般的に運転開始できるまでの時間が蒸留より早いです。それぞれの特徴を踏まえて、蒸留と抽出を適切に選択できるようになりましょう。次回は、抽出の具体的な計算方法や応用例について解説します。
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