欧州保健データスペースの導入に向けた技術仕様の標準化とリアルワールドデータ:海外医療技術トレンド(126)(3/3 ページ)
本連載第116回で取り上げた欧州保健データスペース(EHDS)規則が2025年3月、正式に発効したが、具体的な実装のための技術仕様を巡る動きが活発化してきた。
TEHDAS2がEHDS向け各種ガイドライン/技術仕様書草案を公開
本連載第116回で、フィンランド・イノベーション基金(SITRA)が調整役を担う「欧州ヘルスデータスペースに向けた共同行動2(TEHDAS2)」のガイドライン/技術仕様書草案(2025年1月20日、関連情報)について触れた。そして2025年10月2日、TEHDAS2は、EHDSにおけるヘルスデータの二次利用を効果的に支援するための11のガイドライン/技術仕様書草案を公開し、パブリックコメント募集を開始したことを発表した(募集期間:同年11月30日まで、関連情報)。公開された草案は、以下の通りである。
- EHDS規則に関連する料金に関するヘルスデータアクセス機関向けガイドライン案(関連情報、PDF)
- EHDS規則に関連した不順守に対する罰則に関するヘルスデータアクセス機関向けガイドライン案(関連情報、PDF)
- ヘルスデータの再利用における最小カテゴリーおよび制限に関するヘルスデータアクセス機関向けガイドライン案(関連情報、PDF)
- 個人および非個人の電子ヘルスデータを再利用可能にする方法に関するデータ保有者向けガイドライン案(関連情報、PDF)
- データアクセスの手続きおよび形式に関するヘルスデータアクセス機関向けガイドライン案(関連情報、PDF)
- データアクセス申請管理システム(DAAMS)案−ヘルスデータアクセス機関向け技術仕様案(関連情報、PDF)
- データ最小化、仮名化、匿名化および合成データに関するヘルスデータアクセス機関向けガイドライン案(関連情報、PDF)
- 共通ITインフラの実装に関するヘルスデータアクセス機関向け技術仕様案(関連情報、PDF)
- 安全な処理環境の実装に関するヘルスデータアクセス機関向け技術仕様案(関連情報、PDF)
- ヘルスデータの二次利用に対するオプトアウトの実施に関するヘルスデータアクセス機関向けガイドライン案(関連情報、PDF)
- ヘルスデータの二次利用から得られた重要な所見について自然人に通知する義務の実施に関するヘルスデータアクセス機関向けガイドライン案(関連情報、PDF)
TEHDAS2は、これらのパブリックコメント募集に対するフィードバックを反映させて、一般市民、データ保有者、利用者、規制当局のニーズに応える内容となるよう調整し、順次最終文書を公開するとしている。
保健データスペースから異分野/国際連携への拡張を図るルクセンブルク
他方、EHDS関連プロジェクトの中には、異分野のデータスペースや海外のヘルスデータ共有プロジェクトとの連携を図る動きも顕在化している。本連載第119回で、ルクセンブルクを中心とするEHDS関連コンソーシアムの「Dataspace4Health」(関連情報)を取り上げたが、2025年9月1日、同コンソーシアムは、分野横断的な信頼性の高いデータ共有を可能にするために、「Dataspace4Luxembourg」へとブランドを変更することを発表した(関連情報)。
Dataspace4Healthは、NTTデータ、ローベル・シューマン病院財団、ルクセンブルク保健研究所、ルクセンブルク大学、ルクセンブルク保健庁、ルクセンブルク国家データサービスから構成される産官学連携コンソーシアムである。Dataspace4Healthの取り組みは、信頼性の高い分散型デジタルエコシステムの構築を目標とする「Gaia-X」(関連情報)のライトハウス・プロジェクトとして高く評価されており、ルクセンブルク・日本間を相互接続する実証実験を行った実績がある(関連情報、PDF)。
ルクセンブルク経済省はDataspace4Healthにおける全ての開発成果を他分野でも再利用可能にすることを求めている。今回のブランド変更により、全てのリソースが公開Gitリポジトリを通じてアクセス可能となり、新たな分野でも活用できるようになった。具体的なユースケースとして、Dataspace4FinanceとDataspace4Energyの知見を組み合わせたグリーン金融商品の開発や、Dataspace4MobilityとDataspace4Healthの連携によるパンデミック時における公共交通機関のウイルス拡散管理を挙げている。
その後2025年9月5日には、MeluXinaスーパーコンピュータを運営するIT企業であるLuxProvideが、新たなDataspace4Luxembourgブランドの下で最初に正式参加した組織となり、Gaia-Xにも加盟したことを発表している(関連情報)。
Gaia-Xは、2025年10月14〜17日に幕張メッセで開催された「CEATEC 2025」に代表団を送り込む(関連情報)など、欧州域外への産官学パートナーシップ拡大に向けた取り組みを強化している。日本でも、医療や自動車など業種・業界の枠を超えたデータ連携活動に広がるのか注目される。
Gaia-Xと連携可能なX-Road次期バージョンの開発
さらにGaia-Xに関連して、本連載第116回で欧州諸国/地域の電子政府を支えるX-Roadの開発ロードマップに触れたが、北欧相互運用性ソリューション研究所(NIIS)は2025年10月23日、次期バージョンとなる「X-Road 8 “Spaceship”」のβ版をリリースしたことを発表した(関連情報)。
X-Road 8 “Spaceship”は、主要なデータスペースプロトコルへの対応が可能であり、信頼性の高い分散型デジタルエコシステムの構築を目標とする「Gaia-Xトラストフレームワーク」との整合性も確保されている。これにより、共通欧州データスペース(CEDS)におけるX-Roadのデータ交換基盤としての役割がさらに強化されるとしている。
NIISは、X-Road 8 “Spaceship”の開発プロジェクトにおいて、X-Roadがデータスペースのアーキテクチャやプロトコルを導入しつつ、後方互換性を維持できることを示すPoC(概念実証)を行った成果を踏まえ、X-Road 7の信頼性を保ちながら、新たなアーキテクチャの柔軟性と近代化を加えた本番対応の実装へと進んでいるとしている。公式のX-Road 8ロードマップによると、次期バージョンの最初の本番環境向けリリースは2026年第4四半期に予定されている。既にフィンランドとエストニアの間では、X-Roadを介した医療データ交換基盤が運用されており、新たなX-Road 8の登場がCEDSの動向にどのようなインパクトを及ぼすのか注目されるところだ。
筆者プロフィール
笹原英司(ささはら えいじ)(NPO法人ヘルスケアクラウド研究会・理事)
宮崎県出身。千葉大学大学院医学薬学府博士課程修了(医薬学博士)。デジタルマーケティング全般(B2B/B2C)および健康医療/介護福祉/ライフサイエンス業界のガバナンス/リスク/コンプライアンス関連調査研究/コンサルティング実績を有し、クラウドセキュリティアライアンス、在日米国商工会議所、グロバルヘルスイニシャチブ(GHI)等でビッグデータのセキュリティに関する啓発活動を行っている。
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