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欧州保健データスペースの導入に向けた技術仕様の標準化とリアルワールドデータ海外医療技術トレンド(126)(2/3 ページ)

本連載第116回で取り上げた欧州保健データスペース(EHDS)規則が2025年3月、正式に発効したが、具体的な実装のための技術仕様を巡る動きが活発化してきた。

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HL7 EuropeがxShareと連携してEHDS向けFHIR実装ガイドを公開

 さらに、xShareはHL7 Europeと連携しており、HL7 FHIR(Fast Healthcare Interoperability Resources) R4に準拠した「xShare Yellow Button実装ガイド」(最新バージョンv0.2.0: Release 1、関連情報)を開発中である。図2は、「EUCROF xShare Open Call 2025」より、HL7 FHIR実装ガイドの概要(進行中)を示したものである。

図2
図2 HL7 FHIR実装ガイド(IG)の概要(進行中) 出所:European CRO Federation (EUCROF)「xShare Open Call 2025: Enabling Interoperable Health Data Sharing Across Europe」(2025年11月10日)

 HL7 FHIRには、EHDSの実現に向けた中核的な技術基盤となる「European X-border」の他、「Global Standard」「European Standard」「European “Official”」など、さまざまな標準仕様があり、これらの整合性をどう取っていくかが課題となっている。

 さらに2025年11月12日、HL7 Europeは、xShareと連携して、EHDSを支援するために設計した、以下の3つの新しいHL7 Europe FHIR実装ガイドを公開している(関連情報)。

  • HL7 Europe Base and Core FHIR IG STU 1.0(R4)[0.1.0](関連情報
  • HL7 Europe Base and Core FHIR IG STU 1.0(R5)[0.1.0](関連情報
  • HL7 Europe Extensions FHIR IG STU 1.1[0.1.1](関連情報

 上記には、FHIRリリース4および5向けの「HL7 BaseおよびCore FHIR IG(試行標準)」「HL7 Europe Extensionsパッケージ」が含まれる。HL7 FHIRは、HL7 Internationalによって策定された医療データ交換の標準規格であり、電子保健情報の安全かつ迅速な共有を可能にする。HL7 FHIR実装ガイド(IG)は、特定のユースケースにおいてFHIRリソースを使用するためのルールと制約を定めたもので、必要なFHIRプロファイル、値セット、拡張機能を明示している。他方、EU「Base」プロファイルは、欧州で一般的に使用される概念に対する基礎的な定義を提供するものであり、EU「Core」プロファイルは、多くのユースケースに共通して適用される重要な制約条件を導入し、欧州のFHIR実装ガイドの大半で使用されることを想定している。

 今回公開されたBaseおよびCoreのFHIR実装ガイドは、多様なユースケースにわたる相互運用性の基盤を提供し、各国のプロジェクトや欧州の取り組み、今後のHL7 Europeガイドにおいて一貫した再利用性を可能にするものである。これらを、標準化された拡張機能や対象範囲を明確にしたHL7 Europe実装ガイドと組み合わせることによって、EHDSを支える、整合性のある再利用可能なフレームワークを形成する。また、国際患者サマリー(IPS)などの国際標準とも整合性を保つとしている。本連載第122回で触れたように、米国保健福祉省(HHS)傘下の長官補室技術政策担当/国家医療IT調整室(ASTP/ONC)は、HL7 FHIRをベースとする医療IT認証基準を採用しており、欧州のHL7 Europe FHIRをベースとするEHDSとの間の相互運用性動向が注目される。

 その後HL7 Europeは2025年12月1〜5日、ドイツのケルンでワーキンググループのミーティングを開催しており(関連情報)、EHDSの導入に向けて、前述のxShareを含むさまざまな技術仕様の実装に関する議論を行っている。

医療データの共通モデル/標準規格を巡るハーモナイゼーション

 このような状況下、ドイツのフラウンホーファー デジタル医療研究所(MEVIS)の研究チームは2025年11月13日、BMC Medical Informatics and Decision Makingで、医療データの活用に関わるデータモデルや標準規格のハーモナイゼーションについて「表形式の医療データにおける共通データモデルとデータ標準規格:システマチックレビュー」と題する論文を発表している(関連情報)。この研究では、患者データのハーモナイゼーションに最適なアプローチを特定するため、以下のような共通データモデル(CDM)およびデータ標準規格を対象とした包括的な文献調査を行っている。

  • 共通データモデル(CDM):
  • データ標準規格:

 そして、各CDMおよび標準規格の評価基準として、「適合性」「普及度」「適応性」「相互運用性」「サポート体制」の5つを設定し、分析している。共通データモデルの総合評価結果では、OMOP CDM(スコア21以上)が最も高く、PCORnet(20以上)、i2b2(17以上)、SCDM(16以上)と続いている。他方、データ標準規格の評価では、HL7 FHIR(スコア24以上)が最も高く、電子健康記録(EHR)に関わる国際標準規格ISO13606のベースとなったオープンソースプロジェクトであるopenEHR(23以上)、FHIRの前身であるHL7 CDA(19以上)、HL7 v2(16以上)と続いている。

 研究チームは、各共通データモデルおよびデータ標準規格には、それぞれ固有の特性、強み、弱みがあるため、単一のグローバルな表現形式を選定することはできないとしている。その上で、共通データモデルやデータ標準規格の広範な採用を促進するためには、異なる表現形式間の変換を可能にし、1つのツール内で複数のフォーマットを活用できるようにすることが不可欠であり、このような相互運用性が実現されて初めて、国境を越えたシームレスなデータ交換と研究活動が可能になるとしている。

 さらに、AI(人工知能)やML(機械学習)などの新技術を共通データモデルやデータ標準規格に統合することによって、高度なデータ分析や意思決定を可能にする魅力的な機会を提供する。総じて、医療分野におけるCDMの可能性を最大限に引き出すためには、継続的な協力とイノベーションが不可欠だとしている。

 なお、2025年6月2〜3日に開催されたアムステルダムサミットを契機に、openEHR InternationalとHL7 Internationalは、openEHRとHL7 FHIRに関する相互協力を発表している(関連情報)。openEHRは、英国、ドイツ、ノルウェー、スウェーデン、スロベニア、オランダなど欧州諸国で実装/運用されている他、欧州域外へと拡大しつつあり、日本openEHR協会(関連情報)も設置されている。

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