不均一系触媒反応装置の性能計算:はじめての化学工学(13)(2/2 ページ)
前回取り上げた固体触媒を用いた不均一系触媒反応に対して、今回は設計指標として活用できる内容を解説します。この指標は触媒の性能や装置サイズに影響します。
シーレ数
触媒は、表面積が大きな担体に担持する形で存在しています。その触媒成分は粒子の中にまで広がっています。多孔質の固体触媒粒子の中で起こる反応を考えると、次の3ステップが考えられます。
- 外側の流体から触媒表面までの移動(外部物質移動)
- 触媒粒子内部の細孔の中を進む拡散(内部拡散)
- 触媒表面での化学反応
このうち「粒子内部の拡散」と「粒子内部の反応」の強さを比較評価する無次元数がシーレ数φです。シーレ数が大きく粒子内部の拡散が遅い場合、触媒表面でのみ反応が進行し、内部の触媒が十分に機能しない恐れがあります。
図2 シーレ数および触媒有効係数、R:粒子の代表長さ[m]、km:固体質量基準の反応速度定数(一次反応)[m3/(kg・s)]、ρp:固体粒子の見かけ密度[kg/m3]、DeA:粒子内の有効拡散係数[m2/s][クリックで拡大]
内部拡散の影響を加味して、どれほど触媒が機能しているのかを示す割合として触媒有効係数(η)を用います。ηは「細孔がなく全て粒子表面に触媒がある時の反応速度」に対して、実際の反応速度の比で算出します。η=1のとき、内部拡散の影響がなく完全に反応律速であることを表します。球形触媒かつ一次反応において、ηとφの間には次の関係があります。
φが5より大きくなる状態(反応速度が非常に大きい、もしくは拡散速度が非常に小さい)においてはη=1/φと近似できるようになります。
シーレ数を求めるためには粒子内の有効拡散係数(DeA)が必要になります。ただし細孔構造は複雑で、容易に拡散係数を求めることはできません。実際には並列細孔モデルを用います。細孔の半径を求め、2種類の拡散方式(分子拡散、クヌーセン拡散)における拡散速度を求めます。これらの値から有効拡散係数が求められます。計算までの道のりが長いため、詳細については「橋本健治著 反応工学 改訂増補版(培風館)」を参考にしてください。
まとめ
今回は、不均一系触媒反応装置の性能計算に関わる3つの重要な概念、「空間時間」「圧力損失」「シーレ数」について解説しました。反応器のサイズ決定(空間時間)、運転動力や触媒層の健全性評価(圧力損失)、触媒のポテンシャルを最大限に引き出すための評価(シーレ数)など、これらは反応器を効率よく安全に運用するために不可欠な指標です。日々の運転管理や新たな設備設計の際に、ぜひこれらの考え方を活用してみてください。
参考文献:
[1]改定六版 化学工学便覧p223-224
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![図3 触媒有効係数、φ:シーレ数[-]](https://image.itmedia.co.jp/mn/articles/2512/10/kn20251210hajimetenokagaku3.jpg)
