そもそも化学工学って何?:はじめての化学工学(1)(1/2 ページ)
化学工学は、多くの工業製品の生産を陰で支える重要な学問分野です。しかし、化学工学とは具体的に何をするのでしょうか? 第1回は、初めて化学工学を学ぶ方を対象に基本的な要素を分かりやすく解説します。
実験室の成果を工業化へ導く
化学工学は、実験室規模で確立した化学的プロセスを産業規模で実現するための工学分野です。主な目的は、原材料を有用な製品に変換するプロセスを設計、開発、最適化することにあります。つまり研究開発の成果を実際の製造現場へと橋渡しする重要な役割を担っています。
「化学」という単語を含むことから、研究室や化学メーカーだけが関わる話だと想像するかもしれません。しかし、化学工学は業界の枠をはるかに超え、あらゆる領域で陰から支えています。例えば以下のような観点で産業界に貢献しています。
- 効率的な生産:実験室規模の化学プロセスを産業規模に拡大(スケールアップ)
- コスト最適化:原料やエネルギーの使用効率を最大化し、製造コストを低減
- 品質管理:製品品質の安定化に必要なプロセス制御
- 環境保護:省エネルギーや廃棄物削減に貢献
特にスケールアップは化学工学における代表的な要素であり、工業化の大きな課題でもあります。身近な例でイメージしてみましょう。
カレーを小鍋で煮ると、温度を均一に保ちやすく、熱も速く全体に行き渡ります。しかし、大鍋では、鍋底が熱くなりすぎたり、全体の温度が均一にならなかったりすることがあります。一部は焦げてしまうかもしれません。
化学プロセスにおいては何千リットルもの液体を扱うため、小鍋から大鍋の変化など誤差に捉えられるほど規模が異なります。エンジニアは化学工学の知識を使って、この課題に対処します。
基本概念である単位操作
化学工学の特徴的な考え方が「単位操作」です。これは、複雑な製造プロセスを「伝熱」「蒸留」「ろ過」「抽出」「撹拌(かくはん)」といった基本的な操作単位に分解して考えるアプローチです。
実際の製造プロセスでは、これら単位操作を適切に組み合わせて全体のプロセスを構築します。化学製品の製造工程は大きく分けて、前工程、反応工程、後工程の3つの段階から成ります。目的の化学反応を行うために、前後に処理が挟まった形式です。
前工程では原料の不純物を取り除いたり予熱したりといった事前準備が行われます。次に反応工程で目的の化学反応を起こします。反応が化学反応式の通りに100%進むことは珍しく、後工程で製品を分離/精製することで目的物の純度を高めます。単位操作は1つ1つ順番に行うのではなく、「加熱しながら撹拌する」ように複数の単位操作を同時に行うこともあります。
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