IOWN APNを用いた「世界初」の3D CAD遠隔共同作業の実証に成功:CADニュース
NTTドコモビジネスとダッソー・システムズは、NTTが開発した次世代ネットワーク技術「IOWN APN(All Photonics Network)」を活用し、3D CADによるリアルタイムな遠隔共同作業の実証に「世界で初めて」(両社)成功したと発表した。
NTTドコモビジネス(旧NTTコミュニケーションズ)とダッソー・システムズは2025年12月4日、東京都内で記者説明会を開き、NTTが開発した次世代ネットワーク技術「IOWN APN(All Photonics Network)」を活用し、3D CADによるリアルタイムな遠隔共同作業の実証に「世界で初めて」(両社)成功したと発表した。IOWN APNは電気信号ではなく光信号のみで通信を構成し、超低遅延かつ大容量のデータ伝送を可能とする点が特長である。
実証実験の概要と成果
今回の実証では、NTTドコモビジネスの「東京第11データセンター」(東京都武蔵野市)と、大手町プレイス内の共創空間「OPEN HUB Park」(東京都千代田区)をIOWN APNで接続し、ダッソー・システムズのビジネスコラボレーション基盤「3DEXPERIENCEプラットフォーム」を用いて、3D CADによる遠隔共同作業の検証を実施した。製造業におけるOEMとサプライヤーが連携して設計作業を進めるケースを想定している。
東京第11データセンター側には、3D CADの同一モデルをリアルタイムに共有/編集できる3DEXPERIENCEプラットフォームのデスクトップアプリケーションと、3D CADデータを格納する同プラットフォームのサーバを設置した。一方、OPEN HUB Park側には、3DEXPERIENCEプラットフォームのデスクトップアプリケーションが動作する作業者用PCを配置。2拠点間で数千〜数万個に及ぶ大容量かつ高精細な複数種類の3D CADデータを非圧縮のままサーバからダウンロードし、3D CADによる共同編集を行った。検証には、航空機、産業機械、クレーンの3種類の設計データセットが用いられた。
その結果、同一ビル内でサーバと作業者のPCを接続した場合とほぼ同等のパフォーマンスで共同編集作業が行えることを確認した。また、3D CADで編集可能な環境が同期されるまでの処理時間(Open)を計測したところ、従来のインターネット経由と比較して、3種類の設計データセットそれぞれで劇的な速度向上が見られ、遅延のないスムーズな同期作業が可能であることが分かった。これらの検証結果により、まるで同じ空間で作業しているかのような共同作業が実現可能であることが示された。
ダッソー・システムズ Mgt Director ENOVIA インダストリープロセスサクセス APACのステファニー・ミュレ氏は「コンポーネント数が多いほど、性能の向上が見られた。例えば、5万3742点のコンポーネントで構成される航空機の設計データセットの場合、3D CADで編集可能な環境が同期されるまでの時間(Open)において、最大で約500%の性能向上が確認できた」と説明する。
実証における両社の役割は次の通りだ。NTTドコモビジネスは、インフラ環境の構築/提供、東京第11データセンターとOPEN HUB Parkを接続するIOWN APNの提供、3D CADサーバおよびクライアント機能を担うハードウェア機器の提供を担当した。一方、ダッソー・システムズは、3D CADを活用した3D設計環境の構築、3D CADサーバ/クライアントのソフトウェアの構築と設定、IOWN APN接続におけるソフトウェアの有効性の検証を担った。
リアルタイムな遠隔共同作業が可能に
一般的に、数GB〜数十GBにもなる大容量の3D CADデータは映像データなどとは異なり圧縮が難しく、従来のネットワークでは遅延のないリアルタイムな共同編集作業は困難であった。そのため、設計業務の多くは対面での作業(同じ空間に一堂に会しての作業)が必要とされていた。また、別々の場所で個別に設計を進めた後でデータを結合する場合、整合性が取れず、手戻りが発生するリスクも高かった。
だが、今回の実証により、3D CADを活用した共同編集作業における人の移動やそれに伴うコスト、時間の課題を解消し、製造業にとどまらず、あらゆる産業における生産性向上に寄与する可能性が示された。NTTドコモビジネス イノベーションセンター IOWN推進室の羽石正則氏は「大容量/低遅延なIOWN APNであれば、大規模で複雑な3D CADデータを非圧縮で高速に送信でき、リアルタイムな遠隔共同作業が可能になる」と述べる。また、3DEXPERIENCEプラットフォーム上で一貫した共同作業が行えるため、個別作業後の手戻り防止にもつながるとしている。
デジタルツインの実現に向けて取り組みを加速
両社は今後、IOWN構想が実現する多様なユースケースへの展開を視野に共同提案を推進し、製造業を含む産業分野全体のイノベーションを促進する取り組みを加速させる方針である。ダッソー・システムズは、光を活用した次世代ネットワーク技術の開発やユースケースの検討を行う「IOWN Global Forum」への正式加入を通じ、多様なパートナーとつながり、NTTが提唱する「4Dデジタル基盤」の多分野展開に向けた協業体制を強化する考えだ。
さらに、ダッソー・システムズが推進する「3D UNIV+RSES」の下、IOWN APNを含むNTTドコモビジネスの「AI-Centric ICTプラットフォーム構想」を活用することで、両社は知識とノウハウを共有し、データセンター、IoT(モノのインターネット)、GPUなどを組み合わせ、あらゆる産業のデジタルツインを支える次世代基盤の実現を目指すとしている。
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