フィジカルAIで“負けるという選択肢はない” 日立のミッションクリティカル戦略:モノづくり最前線レポート(3/3 ページ)
日立製作所は最新の研究開発成果に関する展示イベント「Technology Community 2025」を開催。同社 執行役常務CTO 兼 研究開発グループ長の鮫嶋茂稔氏は同イベントの基調講演で、同社の新経営計画に対する取り組みを研究開発の観点で紹介した。
AIの社会実装には、安全性と倫理的なガバナンス構築が不可欠
ミッションクリティカルな社会インフラへのAI適用を成功させるためには、技術的な性能向上だけでなく、その安全性と倫理的なガバナンスの確立が不可欠である。日立は安全性の確保に向けて、ミッションクリティカルシステムに向けた機構としてのガードレールを開発してきた。「われわれは、入力データの整合性の確認に加えて、AIの出力を独立した機構でフィルタリングする仕組みを開発している。現在、設備保全などをターゲットとして実証を進めており、国際規格であるISOなどの取得による標準化への対応も進めている」(鮫嶋氏)。
日立では技術的な安全策に加えて、倫理的側面からAI利用に関するガバナンス体制を強化している。同社は2021年に「AI倫理原則」を定め、ほとんどのAI活用プロジェクトにおける倫理監査を全社体制で取り組んでいる。
鮫嶋氏は「安全性やガバナンスに関する体制を強化していくことで、日立グループが持つ幅広いケーパビリティを全社で活用する、『One-Hitachi』での成長に向けた活動を進めていく」と述べる。
現在のAI技術の延長線上に存在しない新たな次世代技術に“協創で”挑戦
日立では、現在のAI技術の延長線上にはない、量子コンピューティングや宇宙利用といった、非連続的な変化をもたらす可能性のある次世代技術の研究開発にも取り組んでいる。
量子コンピューティング分野では、将来的な事業の大規模化を見据えてシリコン型の量子コンピュータ開発に注力している。欧州のナノエレクトロニクス/デジタル技術の研究機関であるimecや、シリコン量子コンピューティング分野で世界的な研究業績のある理化学研究所と提携して、さらに研究開発を加速させたい考えだ。
宇宙分野では、衛星データを活用したリモートセンシング技術の応用を進めている。さらに、これまで日立が取り組んできた水素エネルギーやバイオといった領域においても、新たな技術開発を通じて新規市場の開拓を目指す。
鮫嶋氏は「こうした取り組みをイノベーションとして成立させるには、社会実装までつなげる必要がある。そして、これは1社だけの企業で達成できるものではない。ここで重要なポイントが、『協創(コ・クリエーション)』である」と強調する。
新しい技術の開発には、戦略的なパートナーやスタートアップ企業、顧客と共になって社会実装に向けて取り組んでいく必要がある。日立ではさまざまな分野ごとにパートナーと「イノベーションエコシステム」を構築し、社会的に価値のあるソリューションへとつなげていく方針である。「日立のR&Dは、さまざまなステークホルダーや官民イニシアチブ、アカデミア、パートナーと共に協創して、イノベーションの社会実装に取り組んでいく」(鮫嶋氏)。
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