知っておきたいJISから見た機械材料 〜鋼の種類と違い〜:若手エンジニアのための機械設計入門(11)(2/2 ページ)
3D CADが使えるからといって、必ずしも正しい設計ができるとは限らない。正しく設計するには、アナログ的な知識が不可欠だ。連載「若手エンジニアのための機械設計入門」では、入門者が押さえておくべき基礎知識を解説する。第11回は、前回の内容を踏まえながら、JISから見た機械材料、特に鋼の種類について取り上げる。
合金鋼
炭素鋼の特性をさらに改善するために、Cr(クロム)、Mo(モリブデン)、Ni(ニッケル)などの合金元素を添加した材料です。これらの元素を加えることで、高温強度、焼入れ性、耐摩耗性、耐食性など、部品機能に直結する特性を向上できます。代表例としてSCM435やSCM440があり、ボルト、ギヤ、シャフトなど、高い応力を受ける部品に広く使用されます。
炭素鋼(機械構造用炭素鋼)と合金鋼の主な特徴を表3にまとめました。設計では、必要になる強度レベル、耐摩耗性、熱処理の有無、使用環境(温度、腐食など)を踏まえ、どちらを選択すべきか判断します。特に、熱処理後に高い強度が必要な場合や、疲労負荷が繰り返し作用する部品では、合金鋼が選ばれることが一般的です。
| 項目 | 炭素鋼(Carbon Steel) | 合金鋼(Alloy Steel) |
|---|---|---|
| 定義 | 炭素鋼が主成分。合金元素は最小限 | 炭素鋼にCr、Mo、Ni、Vなどの合金元素を添加し特性を強化 |
| 主な目的 | 汎用強度/加工性/低コスト | 高強度/高靭性/耐摩耗/耐熱/耐食性などの付与 |
| 熱処理 | 焼入れ効果は限定的(中程度) | 熱処理効果が大きく性能が大幅に向上 |
| 強度 | 中程度 | 高強度で、疲労強度にも優れる |
| 耐摩耗性 | 中 | 高い(合金種類による) |
| 耐食性 | 低(さびやすい) | 組成によっては改善可能 |
| 溶接性 | 比較的良い | ものによっては割れやすい |
| 加工性 | 良好(扱いやすい) | 硬くて難しいものも多い |
| コスト | 安価 | 比較的高価 |
| 代表用途 | フレーム、ブラケット、軸、一般機械構造 | シャフト、ギヤ、ボルト、金型、工具、ベアリング |
| 代表的な材料記号 | SS400、S25C、S45C、S50C、SK4 | SCM435、SCM440、SNCM439、SKD11、SKD61、SKH51、SUJ2 |
| JIS参照 | JIS G3101/4051/4401など | JIS G4105/4805など |
| 表3 炭素鋼と合金鋼の比較 | ||
ステンレス鋼(SUS)
ステンレスは耐食性を確保するためにCrを10.5%以上含む鋼で、JIS記号は「SUS」で始まります。代表例としてSUS304とSUS316が挙げられます。加工性は比較的良好ですが、切削加工時には加工硬化に注意が必要です。特にSUS304は加工硬化しやすいため、工具摩耗や加工負荷が増加しやすく、加工条件の最適化が求められます。また、強度要求が高い部品では、析出硬化系ステンレス(SUS630など)を選択することがあります。用途は食品機器、医療機器、化学プラント機器、海水環境向け設備など多岐にわたります。
| 材料記号 | 用途 | 適用 | 磁性 | 焼入れ性 | JIS | |
|---|---|---|---|---|---|---|
| オーステナイト系 | SUS303 | 防錆の必要な機械部品 | 18-8系快削ステンレス鋼/SUS304より切削性は良い | 無※ | 無 | JIS G 4303 |
| オーステナイト系 | SUS304 | 防錆の必要な機械部品 | 一般耐食鋼/耐熱鋼として最も汎用性が高い | 無※ | 無 | |
| オーステナイト系 | SUS316 | 防錆の必要な機械部品 | SUS305よりも優れた耐海水性 | 無※ | 無 | |
| フェライト系 | SUS430 | 厨房機器(内装)、家電、建築内装、IH底板 | 切削性が良好 | 有 | 有 | |
| マルテンサイト系 | SUS440C | 防錆の必要な機械部品(耐食性はオーステナイト系に比べて劣る) | 焼入れ可能 | 有 | 有 | |
| マルテンサイト系 | SUS410 | 防錆の必要な機械部品(耐食性はオーステナイト系に比べて劣る) | 焼入れ可能、加工性が良好 | 有 | 有 | |
| 表4 ステンレス鋼の分類(※加工により磁性を帯びることがある) | ||||||
「ステンレスはさびない金属では?」と設計初心者から聞かれることがありますが、正確には「さびにくい金属」です。ステンレスでも条件が悪ければ普通にさびます。ステンレスがさびにくいのは、材料中のクロム(Cr)が空気中の酸素と反応して、表面に非常に薄い保護膜(不動態皮膜)を形成するためです。この皮膜が鉄の酸化を防ぎ、さびの発生を抑えています。ただし、塩分や酸によって皮膜が壊れる、あるいは再生できない環境では、通常の鉄と同じようにさびてしまいます。
また、「ステンレスは磁石にくっつかない金属では?」といわれることもありますが、こちらも正しくは「種類によって磁性があるものとないものがある」です。ステンレスにはオーステナイト系、フェライト系、マルテンサイト系などの組織があり、これによって磁性の有無が決まります。例えば、SUS410やSUS440Cは磁石にくっつきますが、SUS304やSUS316は基本的には非磁性です。ただし、SUS304は切削、曲げ、溶接などの加工によって組織が部分的に変化し、磁性を帯びる場合があります。
このように、ステンレス鋼は耐食性、強度、加工性、磁性など、性質が系統ごとに大きく異なる材料です。設計時には、使用環境(腐食、水分、薬品、温度)、必要強度、加工方法などを踏まえた適切な選定が必要です。
機械材料にはアルミ合金や銅合金などもあり、さらに熱処理や表面処理の考慮も不可欠です。これらについては次回解説します。 (次回へ続く)
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
絶対に押さえておきたい「機械材料」の基礎知識
3D CADが使えるからといって、必ずしも正しい設計ができるとは限らない。正しく設計するには、アナログ的な知識が不可欠だ。連載「若手エンジニアのための機械設計入門」では、入門者が押さえておくべき基礎知識を解説する。第10回は、若手エンジニアの皆さんにぜひ理解しておいてほしい「機械材料」の基本を取り上げる。
公差設計のPDCAを回す
3D CADが使えるからといって、必ずしも正しい設計ができるとは限らない。正しく設計するには、アナログ的な知識が不可欠だ。連載「若手エンジニアのための機械設計入門」では、入門者が押さえておくべき基礎知識を解説する。第9回は、公差設計の運用、PDCAを回す重要性について取り上げる。
データムを必要とする幾何公差【その1】〜姿勢公差の平行度〜
機械メーカーで機械設計者として長年従事し、現在は3D CAD運用や公差設計/解析を推進する筆者が公差計算や公差解析、幾何公差について解説する連載。第8回はデータムを必要とする幾何公差をテーマに、姿勢公差の平行度について取り上げる。
データムを必要とする幾何公差【その2】〜姿勢公差の直角度〜
機械メーカーで機械設計者として長年従事し、現在は3D CAD運用や公差設計/解析を推進する筆者が公差計算や公差解析、幾何公差について解説する連載。第9回はデータムを必要とする幾何公差をテーマに、姿勢公差の直角度について取り上げる。
データムを必要とする幾何公差【その3】〜姿勢公差の傾斜度〜
機械メーカーで機械設計者として長年従事し、現在は3D CAD運用や公差設計/解析を推進する筆者が公差計算や公差解析、幾何公差について解説する連載。第10回はデータムを必要とする幾何公差をテーマに、姿勢公差の傾斜度について取り上げる。
データムを必要とする幾何公差【その5】〜位置公差の位置度〜
機械メーカーで機械設計者として長年従事し、現在は3D CAD運用や公差設計/解析を推進する筆者が公差計算や公差解析、幾何公差について解説する連載。第12回は「位置公差」のうち「位置度」について取り上げる。
