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公差設計のPDCAを回す若手エンジニアのための機械設計入門(9)(1/3 ページ)

3D CADが使えるからといって、必ずしも正しい設計ができるとは限らない。正しく設計するには、アナログ的な知識が不可欠だ。連載「若手エンジニアのための機械設計入門」では、入門者が押さえておくべき基礎知識を解説する。第9回は、公差設計の運用、PDCAを回す重要性について取り上げる。

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 連載「若手エンジニアのための機械設計入門」では、機械設計を始めて間もないエンジニアの皆さんを対象に、設計業務で押さえておくべき基礎知識や考え方などを分かりやすく解説していきます。

 これまで「公差」をテーマに、確率統計の考え方や工程能力指数(Cp)について解説してきました。設計製図分野と、このような数学や工学に基づく理論との連携によって、正しいシミュレーションが可能になります。これは、まさに強度解析と同じ手法だと筆者は考えています。

 そこで今回は、公差設計がどのように運用されるべきかについて解説します。

公差計算の結果は正しいのか

 前回説明したように、公差の設定は設計者が行います。設定された部品は実際に加工され、製品として組み立てられます。現場ではこれに基づいて組み立てが行われますが、不良が発生することもあります。そのような場合、製造現場ではサンプル測定や、場合によっては全数検査が実施されることもあります。

 では、設計者が不良率のシミュレーションを行っていた場合、そのサンプル測定結果は同じになるのでしょうか。「実績のある部品を、実績のある加工機械と作業者によって、同じ室温/湿度、全て同じロットの材料を使用して製造する」といった理想的な条件の下で、設計者が工程能力指数を参考にしているのであれば、同じ結果が得られるかもしれません。しかし、現場ではこうした理想的な条件が整わないこともあり、常に同じ結果になるとは限りません。

 ここで、これまでの不良率の算出に至る手順をまとめておきます。

  • バラつきを統計的に考える
    • 工程能力の見積もり
    • 不完全互換性の方法
    • 互換性の方法
    • 分散の加法性
    • 公差設定
  • 公差を工程能力で評価
  • 標準正規分布から不良率の算出と評価
  • 公差の評価と設定

 この手順にあるように、最終的な公差の評価と設定に至るまで、仮想的、すなわち机上での検証が行われています。では、公差計算と実態との整合性には、どのような課題があるのでしょうか。

公差計算と実態の整合性の課題

 公差計算と実態の整合性の課題は、そもそも公差を必要とする要因でもある「4M」にあると筆者は考えます。以下に、4Mが与える影響を整理しました。

1.Man(人)

  • 操作スキルの差
    • 同じ機械でも、オペレーターごとに段取りや工具の扱い方にクセがあり、仕上がり寸法に差が出る
    • 検査員の測り方の違いにより、寸法分布が揺れる
    • 目盛りの読み取り方など、人に依存してデータが変動する
  • 段取り/調整の精度
    • 刃物の取り付けや芯出し、クランプの仕方など、作業に依存する部分で誤差が生じやすい
  • 作業習熟度
    • 熟練者は条件を安定させやすい一方、経験が浅いと寸法のバラつきが大きくなることがある
  • 判断のバラつき
    • 読み取り方の違いによる誤差が生じやすい

2.Machine(機械)

  • 機械のクセ
    • 稼働直後と長時間稼働後で精度が変化する
  • 加工特性
    • 切削方向や成形時の収縮による寸法変化

3.Material(材料)

  • ロット差
    • 材料の硬さや収縮の仕方に違いがある
  • 外れ値
    • 不純物や異常によって極端な寸法が出ることがある

4.Method(方法/環境)

  • 環境影響
    • 温度/湿度による膨張や収縮
  • 組み立てズレ
  • 理論とのギャップ
    • 現場は必ずしも正規分布せず、工程能力が不足していると不良率は設計通りにならない

 まとめると、公差計算による設計は「正規分布を前提」に行われますが、現場では人、機械、材料、方法の影響が重なり、実測値には理想から外れる要因が多く含まれているということです。

 このため、公差設計においてはPDCAの実践が必要です。

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