公差設計のPDCAを回す:若手エンジニアのための機械設計入門(9)(2/3 ページ)
3D CADが使えるからといって、必ずしも正しい設計ができるとは限らない。正しく設計するには、アナログ的な知識が不可欠だ。連載「若手エンジニアのための機械設計入門」では、入門者が押さえておくべき基礎知識を解説する。第9回は、公差設計の運用、PDCAを回す重要性について取り上げる。
公差設計のPDCA
公差設計と実態との間にある差異を改善し、設計精度を高めていくには、公差設計のPDCAサイクルを回していく必要があります。
PDCAサイクルとは
まず、一般的なPDCAサイクルについて説明します。PDCAとは、改善活動や品質管理の基本となる「継続的改善」のサイクルであり、次の4つのステップで構成されています。
1.Plan(計画)
- 目標を立て、達成のための方法を計画する段階
2.Do(実行)
- 計画した方法を実際に試してみる段階
3.Check(評価/確認)
- 実行した結果をデータで確認し、計画通りかを評価する段階
4.Action(改善/標準化)
- 成功した方法を標準化し、次の活動に生かす段階
※課題が残る場合は、再び「Plan」に戻って改善を続ける。
PDCAサイクルとは、計画→実行→評価→改善を繰り返すことで、業務や設計の品質を継続的に高めていく仕組みです。
公差設計におけるPDCAサイクル
一般的なPDCAサイクルについて説明しましたが、公差設計におけるPDCAサイクルはどのようになるのでしょうか。以下にまとめます。
1.Plan(計画)
- 設計段階での目標設定
- 製品機能に必要な寸法精度を明確にする
- 許容できる不良率を推測/設定する
- 材料特性、加工方法、組み立て方法を考慮し、公差の目標値を定める
- 解析による事前評価
- 公差解析(バラつき伝播計算や統計的手法など)を用いて、設計公差が機能要件を満たすか確認する
2.Do(実行)
- 試作、試験生産、生産の実施
- 設定した公差で部品を加工/組み立てし、実寸法データを取得
- 測定と評価方法の確立
- 測定器や測定条件を整備し、バラつきを正しく把握できる仕組みを実行
3.Check(評価)
- 設計と実測値の比較
- 試作結果の寸法分布が、設計時の想定(正規分布やシミュレーション)と一致しているかを確認
- 不良率の検証
- 不良率が計画値以内に収まっているか評価する
- 分布に異常が見られる場合は、その要因を4M(人/機械/材料/方法)から特定する
4.Action(改善)
- 設計の修正
- 公差の再設定、または加工方法/治具の改善を実施
- 標準化と展開
- 効果が確認できた条件や設計ルールを標準化し、次の設計にフィードバックする
- 社内設計基準やチェックリストに反映し、再発防止と継続的改善につなげる
このPDCAを繰り返すことで、現場に即した公差管理が可能になります。
設計者は厳しい公差を設定しがちですが、加工部門や調達部門はコストや納期の観点から、緩い公差を望む傾向があります。ここには常に「公差のせめぎ合い」が存在します。
つまり、公差設計のPDCAは設計部門だけでなく、調達/加工/品質管理、さらには外部加工会社との連携によって回す必要があります。設計者には、CADの前に座るだけでなく、現場に足を運ぶ姿勢も求められます。
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