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鋼の高純度化/高清浄化技術鉄鋼材料の基礎知識(5)(3/3 ページ)

今なお工業材料の中心的な存在であり、幅広い用途で利用されている「鉄鋼材料」について一から解説する本連載。第5回は、鋼の高純度化/高清浄化技術について説明する。

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VARとは

 VAR(Vacuum Arc Remelting)は、日本語で「真空アーク再溶解」と呼ばれる二次溶解法です。一般的な二次精錬やVIMによって一度製造された鋼を高真空下で再溶解し、清浄な鋼を得る方法です。水冷モールド内に固定された鋼自身が電極となってアークを発生し、その熱によって鋼が溶解していきます。溶解した鋼は水冷モールド内に滴下し、積層凝固していきます。

 VARでは真空中で鋼が溶解するため、ガス成分(酸素、窒素、水素)の除去効果が大きく、介在物の量が著しく減少します。また、均質で緻密な凝固組織が得られるため、靭性、疲労強度、クリープ強度の高い鋼を製造できます。VARで製造された鋼は、航空機やガスタービンなどの部材に用いられています。

図7 VARの概略図
図7 VARの概略図[クリックで拡大]

ESR

 ESR(Electro Slag Remelting)は、日本語で「エレクトロスラグ再溶解」と呼ばれる二次溶解法です。こちらもVARと同様に、一度製造された鋼を再溶解し、清浄な鋼を得る方法です。水冷モールド内に固定した鋼を電極とし、大気中あるいは不活性ガス雰囲気下で鋼を溶解していきます。溶解は、電極を溶融スラグと通電したときに発生する抵抗熱によって行われます。溶解した鋼はスラグ中を滴下し、水冷された水冷モールド内に積層凝固していきます。

 ESRでは、溶解した鋼がスラグ中を通過することで鋼の脱硫、脱酸が促進され、介在物の量が減少します。また、VARと同様に均質で緻密な凝固組織が得られます。ESRによって製造された鋼は、工具、耐熱鋼、航空機用部材など、幅広い用途に用いられます。

図8 ESRの概略図
図8 ESRの概略図[クリックで拡大]

特殊精錬法

 特殊精錬法は、一般的な精錬方法を適用できない高合金鋼などに対して行われる特殊な精錬法です。

AOD

 AOD(Argon Oxygen Decarburization)は、アルゴンガスと酸素ガスの混合ガスを溶鋼に吹き込んで撹拌し、脱炭を行う方法です。主にステンレス鋼の二次精錬に適用されています。

 ステンレス鋼といえば、高い耐食性を示すことで知られる特殊鋼であり、建材、厨房機器、プラント機器、医療用機器など、幅広い用途で利用されています。ステンレス鋼の耐食性は、鋼中に高い含有率(10.5%以上)で含有しているクロム(Cr)によって生成される不動態皮膜(ふどうたいひまく)によって発現します。

 ただし鋼中の炭素含有率が高いと耐食性が低下するため、製鋼においては炭素量を低減させるプロセスが重要となります。このプロセスは容易ではなく、クロム濃度が高い溶鋼中に酸素を吹き込んで脱炭しようとすると、クロムが優先的に酸化されるため、脱炭反応が阻害されます。

 そこで鋼中のクロムの酸化を抑制しつつ、効率的に脱炭できる方法がAODです。アルゴンガスの吹き込みによってCO分圧が下がることにより、鋼中のクロムの酸化を抑制しつつ脱炭が促進します。これによって低炭素含有率のステンレス鋼を製造できます。

VOD

 VOD(Vaccum Oxygen Decarburization)は、真空下で溶鋼に酸素ガスを吹き付け、脱炭を行う方法です。AODとともに、ステンレス鋼の二次精錬法として使用されています。溶鋼の入った取鍋を真空槽内に置くことで脱炭反応時のCO分圧を下げ、クロムの酸化を抑制しながら脱炭することが可能です。

 アルゴンガスの吹き込みによる溶鋼の撹拌も行われるため、効率的に脱炭できます。また、VODはAODと比べ、鋼中の炭素含有率をより低くすることが可能です。さらに真空下で処理することで脱酸、脱窒が促進されるため、介在物を減らせます。

図9 AODとVODの概略図
図9 AODとVODの概略図[クリックで拡大]

 以上、鋼の高純度化/高清浄化技術について説明しました。高品質な鉄鋼材料を作るためのプロセスをご理解いただけたなら幸いです。次回は、鉄鋼材料の成形加工法について説明します。

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筆者紹介

ひろ/ものづくりの解説書

鉄鋼品メーカーに勤務するものづくりエンジニア。入社以来、大型鉄鋼品の技術開発、品質保証、生産管理等の業務に携わってきた。自身が運営するWebサイト「ものづくりの解説書」では、ものづくり業界の魅力を発信する記事や技術解説記事などを公開している。


参考文献:

[1]藤木榮、金属材料・部品の損傷および破損原因と対策Q&A、日刊工業新聞、2011年

[2]塗嘉夫、介在物はどこからくるのか、まてりあ、第33巻、第3号、p.217-222、1994年


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