日本の車載ソフト開発者はSDV対応の現状に厳しい見方、リスク重視の慎重姿勢強く:車載ソフトウェア
QNXがSDVの開発に関するグローバル調査について説明。調査結果では、日本の車載ソフトウェア開発者が海外と比べて、規制への順守に困難を感じていたり、自社の開発環境の生産性を低く感じていたりするなど、現状に対して厳しい見方をしていることが分かった。
ブラックベリー(BlackBerry)傘下で組み込みシステムの開発プラットフォームを展開するQNXは2025年11月11日、東京都内で会見を開き、SDV(ソフトウェアデファインドビークル)の開発に関するグローバル調査「Under the Hood: The SDV Developer Report」の内容について説明した。調査結果では、日本の車載ソフトウェア開発者が海外と比べて、規制への順守に困難を感じていたり、自社の開発環境の生産性を低く感じていたりするなど、現状に対して厳しい見方をしていることが分かった。
今回の調査は、世界各国の組み込み系車載ソフトウェアの開発者1100人を対象に実施した。対象となった国は、日本、中国、インド、米国、カナダ、英国、フランス、ドイツで、日本からは100人の車載ソフトウェア開発者が調査に回答した。調査期間は2025年7月25日〜8月5日。
調査結果では、SDVへの対応をはじめ100年に一度といわれる自動車業界の変革を前に、日本の車載ソフトウェア開発者が現状に対して厳しい見方をしていることがあらわになった。例えば、サイバーセキュリティや機能安全をはじめSDVに向けて複雑化している規制への対応で「非常に自信がある」と回答した開発者の割合は、60%超のインドや50%超の米国を筆頭に世界平均が39%なのに対し日本は16%と半分以下となり最下位だった。
また、自社の開発環境の生産性について「非常に良い」と回答した割合でも、世界平均の30%に対して日本は14%と大きな乖離(かいり)があった。さらに、完全自動運転に対する注目は「過剰」と回答した割合は世界平均の54%に対して71%と高く、SDVのイノベーションに追い付けるスピードで規制が「進化できる」と回答した割合も、世界平均の85%に対して67%と低かった。QNX Japan シニア カントリーセールスマネージャーの松岡秀樹氏は「海外の開発者が完全自動運転やSDVのイノベーションにより積極的な姿勢であるのに対し、日本の開発者からはリスクをより重視する慎重な姿勢が見られた」と語る。
自社の開発環境の生産性に対する各国の評価。日本は「非常に良い」が最も少ない。また、海外が「悪い」と「非常に悪い」の合計が1%以下なのに対し、日本は「悪い」13%、「非常に悪い」1%で合計14%と突出している[クリックで拡大] 出所:QNX
ソフトウェアの大規模化が加速するSDVでは、OSS(オープンソースソフトウェア)の活用に代表される協働的な開発手法や業界横断的な連携も必要になるといわれている。しかし、自社が協働的な開発手法を支援しているかという設問に「強く同意」と回答した割合は、インドの72%、世界平均の50%に対して日本は33%で最下位だった。業界横断的な連携が「重要」と回答した割合も、世界平均の93%に対して日本は83%で最下位だった。特に、業界横断的な連携が「重要ではない」と回答した割合は、日本は世界平均の2倍の12%と極めて多かった。「この結果は、日本独自の文化的、組織的な慎重さが影響している可能性が高い」(松岡氏)。
ただし、自動車メーカーが競争力を維持するにはSDV化によってより大きな差別化要因になるアプリケーション層のイノベーションに注力すべきかという問いに対して、日本の開発者は世界平均と同じく78%が「注力すべき」と回答している。松岡氏は「日本の開発者は、現状に対する厳しい認識があるものの、SDVの進化を加速させるための連携の準備ができている表れではないか」と分析する。
松岡氏は、今回の調査結果に対して「慎重さ、安全性、厳格な規制順守への強い意識など、日本の文化的、組織的な特徴が大きく出た。ただ、実際のところ日本の自動車産業がSDV対応に向けて大きく後れを取っているわけではない。現状への厳しい見方からは、逆にこれを機にトップに立つぞという意気込みも感じられる。今後登場するEV(電気自動車)や自動運転技術などで世界市場を驚かせてくれるのではないかと期待している。QNXとしては、日本の開発者が対応の困難さを感じるとともに重視している規制順守に役立つ、実績のある基盤ソフトウェアで支えていきたい」と述べている。
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