デンソーの新型インバーターは電力損失7割削減、SDV対応のオリジナルSoCも開発:Japan Mobility Show 2025
デンソーは、「Japan Mobility Show(ジャパンモビリティショー) 2025」で開催したプレスカンファレンスにおいて、SiCデバイスを採用した電動車向けの新型インバーターとSDV時代に対応する統合モビリティコンピュータを発表した。
デンソーは2025年10月30日、「Japan Mobility Show(ジャパンモビリティショー) 2025」(プレスデー:同年10月29〜30日、一般公開日:同年10月31日〜11月9日、東京ビッグサイト)で開催したプレスカンファレンスにおいて、SiC(シリコンカーバイド)デバイスを採用した電動車向けの新型インバーターとSDV(ソフトウェアデファインドビークル)時代に対応する統合モビリティコンピュータを発表した。
デンソー 代表取締役社長の林新之助氏は、スターター/オルタネーターから始まった同社の車載システムの沿革を紹介するとともに「こうして培われてきた技術の『広さ』と『深さ』が、今後のクルマの進化とモビリティ社会の未来を支えるデンソー独自の強みだと考えている」と語る。
自動車業界がカーボンニュートラルを実現する上で重視しているのが電動化技術である。特に、車載モーターを効率よく動作させる電力変換器であるインバーターは差異化の大きなポイントになる。今回、デンソーが新たに開発した電動車向けインバーターは、パワー半導体として独自の3次元構造であるトレンチMOS構造を持つSiCデバイスを採用するとともに、これまで水平方向に対して縦に並べて配置していたパワーカードをカーエアコンで培ってきた冷却技術を活用することで平置きにして両面冷却できるように構造を変更した。これらの工夫により、従来のシリコンパワー半導体を用いるインバーターと比べて電力損失を70%削減し、インバーターの中核を成すコアモジュールの容積を30%小型化することができた。「世界最高の出力密度を実現し、車両全体の電費向上に貢献していく」(林氏)という。
一方、SDV時代に向けて、車両に分散して搭載されているECU(電子制御ユニット)の機能を1つに集積した高性能の統合型コンピュータの開発も求められている。デンソーは、これまで培ってきた半導体開発の技術力を基に、高い演算性能と低消費電力、機能安全と耐環境性といった信頼性を実現するオリジナルSoC(System on Chip)の開発を進めている。
オリジナルSoCは、リアルタイム性を確保する割り込みデータ処理、多数のECUの機能集積に対応するデータ分散型通信経路、消費電力を抑える利用シーンに応じた機能制御、これらの工夫を1個のICに盛り込むためのチップレット技術などが活用されている。
このオリジナルSoCを搭載した統合モビリティコンピュータは2029年に市場投入する方針だ。善明製作所(愛知県西尾市)内に2027年完成する予定の次世代工場では「24時間無人稼働で生産する」(林氏)としている。
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