デンソーの自動化を学べる「LAスクール」 真因を探る人材の育て方とは:製造業のヒトづくり最前線(1)(1/3 ページ)
モノづくりの根本たる人材をいかに育てるか。これはベテランの高齢化や技術継承問題に悩む製造業全体の共通課題だ。本連載では先進的な人材育成を進める企業にスポットを当てて、その取り組みを紹介する。第1回はデンソーの「Lean Automationスクール」だ。
日本の製造業の人手不足は深刻さを増している。工場ラインの自動化は、その有力な解決策の1つだ。しかし、コストをかけて産業用ロボットなどの「ハードウェア」を導入して自動化すればそれでよい、というわけにもいかないのだ。
製造工程を見直して作業をスリム化しなければ、不要な作業まで自動化することになり、余計な投資コストがかさむ。また、日本の高度な現場作業者の手作業はそう簡単に自動化設備に置き換えられる単純作業ではない。高度なスキルや問題解決力を要する「熟練の作業」だ。それゆえ、どの作業が自動化設備に置き換え可能かどうかを注意深く検証する必要がある。
自動化の実践経験やノウハウもない状態でこれらを進めることは難しい。そうした悩みを抱える企業にとって、デンソーの「Lean Automationスクール(以下、LAスクール)」は注目に値するだろう。LAスクールはデンソーが「経営効率の高い生産ラインの自動化」を実現するために蓄積してきたノウハウを製造業全体に発信する、いわばモノづくり企業の「学びの場」だ。
一体、どのように自動化に関するデンソーのノウハウを学ぶことができるのか。また、そもそもなぜ自社のノウハウを社外に公開する取り組みを始めたのか。同社 FA推進事業部 部長の横瀬健心氏と、同社 生産革新センター FAグループ事業統括室の安東浩汰氏、同社 Lean Automationスクール講師の原田浩史氏に、LAスクールの設立目的やカリキュラムについてお話を聞いた。
「筋肉質」な自動化の実現へ
――デンソーが社外向けのLAスクールを運営する目的についてお聞かせください。
横瀬健心氏(横瀬氏) まずは当社について簡単に説明させてください。デンソーは長年にわたって自動車部品を製造してきた会社です。エンジンに代表されるパワートレイン系から、自動車の電動化に伴うコントローラーやコンピュータ部品、センサー、半導体などバラエティー豊かな製造を行い、多種多様な生産技術を有しています。
また、世界35カ国と地域で約130の工場を展開し、各工場で「無駄のない経営効率の高い自動化(Lean Automation:リーンオートメーション)」を推進してきました。日本の製造業が人材不足によって活力を失っていく今、そのノウハウを広く社会に提供することで、日本の製造業の「現場づくり」に貢献したい。そんな思いから2020年10月からLAスクールをスタートさせました。
――Lean Automationとは、どのような生産ラインの自動化を表すのでしょうか。
横瀬氏 「Lean」とは「無駄がない」「筋肉質な」といった意味の言葉です。製造工程上の無駄を徹底的に削ぎ落とす生産方式を追求すること。それは、トヨタグループをはじめとする日本の製造業に脈々と受け継がれてきた思想といえるでしょう。
生産ラインの自動化でも、製造工程に無駄を残したままでは、余計な工程や作業も含めて自動化してしまい、経営効率の改善を妨げてしまいます。そこで、工程や作業の無駄を徹底的に排除した上で、正味の作業だけを自動化することで、導入コストを抑えながら効果を最大化させるのです。これを、私たちは「Lean Automation」と呼んでいます。
――LAスクールのカリキュラムはどのようなものでしょうか。
安東浩汰氏(安東氏) LAスクールでは「自動化」「物流」「IoT(モノのインターネット)」の3種類のコースを展開しています。今回は「自動化」に絞ってカリキュラムを説明します。
LAスクールでは、Lean Automationを実現するための手法やアプローチを受講者に提供する上で、「トータル視点」「実践力」「仲間づくり」の3点を重視しています。
トータル視点とは、エンジニアリングチェーンを俯瞰してトータルで経営効率を考えていくことです。その上で、自動化設備導入前の作業の合理化、自動化技術への置き換え、導入後の継続的な改善の3つのステップを座学と実技で学びます。
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