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モノの量産を巡る「機械ビジネス」〜金型、板金からレアメタルまでディープな「機械ビジネス」の世界(3)(2/2 ページ)

本連載では、産業ジャーナリストの那須直美氏が、工作機械からロボット、建機、宇宙開発までディープな機械ビジネスの世界とその可能性を紹介する。今回は、モノを量産するために必要な要素や材料について触れる。

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世界有数の「レアメタル消費国」でもある我が国の課題

 また、モノを作るためには材料も必要です。例えばMRIなどの医療機器やデジタルカメラ、PC、スマホなどを製造するために必要不可欠な材料に、レアメタルがあります。

 レアメタルは、地球上の残存量が希少な金属で、中でもタングステン、コバルト、ニッケルなどは安定供給がとても困難です。レアメタルはごくわずかな量でも、部品などの機能を飛躍的に向上させるため、非常に重要な材料と言えます。しかしながら、生産国が限られており、生産国の輸出政策などの影響を大きく受けるため、安定確保が難しいのです。

 特に近年は、自動車関連の技術や情報通信機器などの発展により、レアメタルの消費は世界規模で拡大していますが、中国などの資源国は「戦略物資」として輸出抑制による国家管理を強めたりしています。こうした理由からも、レアメタルの供給環境には不安定な要素が数多く存在します。

 このように、レアメタルは国際的な希少資源として、利益獲得競争の激化は避けられません。高度なモノを作る技術を持つ日本は、世界でも有数のレアメタル消費国であるため、この問題は避けて通れないのです。

 最終製品を作るために必要な金型でも部品でも、モノを作るためには切削工具が使われます。中でも硬さと強度を兼ね備えた「超硬工具」はレアメタルを主成分とした金属で作られ、自動車/エネルギー/航空機産業などの金属加工には欠かせない工具です。

 ざっくり説明すると、超硬合金はレアメタルを主成分とする炭化タングステンに、結合材としてコバルトを加えて結合焼結させた合金で、超硬工具の約90%はタングステンから構成されています。これが、ドリルやチップなどの切削工具の性能を向上させる鍵となっています。

 他にも、タングステンは放射線を遮断する能力が高く、X線CTなど医療分野や電子レンジ内のマイクロ波を発生するマグネトロンとして使用されています。

安定供給や有効活用のための努力は続く

 タングステンはこのように私たちの生活に欠かせないものですが、事実上、生産量の80%以上を占める中国に依存しており、今後も中国の影響力が気になります。もし、これらの鉱物資源の供給が止まった場合、私たちの産業活動や日常生活に支障が出てしまいます。

 こうしたことから政府は、長期にわたり鉱物資資源の安定供給を確保するために、鉱山を開拓するための探鉱調査を行ったり、開発に対する民間への助成等を行ったりしています。

 また、資源外交として、米国、オーストラリア、カナダなどの国と連携した鉱物資源開発や、南部アフリカ諸国などカントリーリスク(政情不安/経済不安/治安問題など)を有する地域の資源国との関係強化を図っています。

 このタングステンという貴重な資源を有効活用するため、住友電気工業では、使用済みの刃先交換チップを中心に超硬合金製品を回収し、溶解/再加工して高純度の工具に再生する取り組みを行っています。

 三菱マテリアルも、さまざまな使用済み製品や他産業から排出される産業廃棄物を回収し、再度素材として再生するリサイクルに取り組むことで、廃棄物の量と天然資源の使用量を削減しています。

 このように日本では、タングステンなどを使った製品は、使用済みになれば回収し、レアメタルを抽出するリサイクルを実施しており、抽出技術自体の開発も進んでいます。日本はナノテクノロジーなどを筆頭に先進的な技術を保有しているため、将来的には現状のレアメタルを代替する素材などの研究開発も進んでいくと思われます。

著者略歴

那須直美(なす・なおみ)

インダストリー・ジャパン 代表

工業系専門新聞社の取締役編集長を経てインダストリー・ジャパンを設立。機械工業専門ニュースサイト「製造現場ドットコム」を運営している。長年、「泥臭いところに真実がある」をモットーに数多くの国内外企業や製造現場に足を運び、鋭意取材を重ねる一方、一般情報誌や企業コンテンツにもコラムを連載・提供している。

産業ジャーナリスト兼ライター、カメラマンの二刀流で、業界を取り巻く環境や企業の革新、技術の息吹をリアルに文章と写真で伝える産業ドキュメンタリーの表現者。機械振興会館記者クラブ理事。著書に「機械ビジネス」(クロスメディア・パブリッシング)がある。


⇒連載「ディープな『機械ビジネス』の世界」のバックナンバーはこちら

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