核融合発電の技術開発で日本がリード、最終実証装置の建設に着手:材料技術(2/2 ページ)
Helical Fusionはヘリカル型核融合炉の重要部品「高温超伝導マグネット」の個別実証を完了した。この成果を踏まえて、最終実証装置「Helix HARUKA」の製作/建設に着手する。
高温超伝導マグネットの個別実証とは
Helical Fusionは、核融合炉内の磁場環境を模擬した状況下で、実機向け大型超伝導導体を使用した高温超伝導コイルを用いて、超伝導状態での通電試験に2025年9月に成功という成果を上げた。
田口氏は「今回の成果を受けて、高温超伝導マグネットの個別実証を完了とし、当社は最終実証装置『Helix HARUKA』の製作/建設に着手することを決めた」と話す。
その上で今回の成果の意義について、「核融合炉内の磁場環境を模擬したのがポイントだ。炉内では、高温超伝導コイルだけでなく、他のコイルなども磁場(外部磁場)を発生する。外部磁場の影響により、高温超伝導コイルの磁場でプラズマを制御しにくくなる。当社の高温超伝導コイルがこういった問題を解消できるかをテストした」と強調する。
加えて、実機向け大型超伝導導体を使用した高温超伝導コイルを作製した点も大きなポイントだという。「その高温超伝導コイルを試験装置に格納し、外部磁場の影響を与えつつ、通電し超伝導状態を維持できることが分かった。これらの実証完了は世界初だ」(田口氏)。
今回の性能試験は、核融合科学研究所(NIFS)との共同研究の一環として行われた。NIFSが保有する実験装置「大口径高磁場導体試験装置」を用いることで、核融合炉における磁場環境を模擬した状況下で、大電流を通電して成果を得られた。
核融合炉のインテグレーターを目指すワケ
Helical Fusionは現状、ヘリカル型核融合炉の商用化で必要な概念実証、高温プラズマと定常プラズマの実証、超電導の通電試験と環境試験を完了し、定常/正味発電を実現する核融合炉の設計にも対応している。ブランケット兼ダイバータは開発中だ。残す課題は、ブランケット兼ダイバータの開発達成や、統合実証用のヘリカル型核融合炉と定常/正味発電を行える同核融合炉の建設となっている。
「米国の民間核融合エネルギー企業であるCommonwealth Fusion Systems(CFS)は現在、トカマク型核融合炉の開発を進めているが、概念実証、高温プラズマの実証、超伝導の通電試験のみを完了した状態だ。トカマク型核融合炉を用いた定常プラズマの実証は現状不可能な状態で、ブランケット/ダイバータの開発は未着手、統合実証用の核融合炉の建設も未着手、定常/正味発電を行える核融合炉の設計は原理上困難で、建設も未着手だ。核融合発電の開発は欧米が先行しているというニュースを見かける機会もあるが、技術開発に関しては日本が先頭にいる」(田口氏)
同社ではヘリカル型核融合炉の設計/統合にこだわっているという。その理由に関して、田口氏は「当社では、単に超伝導コイルやブランケット/ダイバータを開発しているワケではない。ヘリカル型核融合炉の全体を開発しなくてはならないと考えている。なぜかと言うと、コンポーネントや材料の開発だけでは産業間の競争では勝てない。例えば、業界をリードしているNVIDIAやApple、Space Exploration Technologies(SpaceX)に共通している点は、システムを統合し完成品で提供していることだ。つまり、インテグレーターにならないと業界をリードできない。日本企業がインテグレーターになれず、痛い目に遭ったケースを見てきた学びだ」と語った。
さらに、核融合炉のインテグレーターとなることで、マーケットリーダーを目指すことを示した。「これまで日本企業の多くが位置してきたサプライヤーポジションにとどまっていると、高いモノづくり力があっても他国の企業との価格競争にさらされる。薄利で戦わなければならず、これにより日本企業全体が弱体化してきたとみている。当社は核融合炉のインテグレーターとなることで、部品や素材の価格決定権を握り、品質競争とする。これにより、日本のモノや技術が正当な価格で販売され、産業の競争力につながると考えている」(田口氏)。
なお、Helix Programでは、2020年代中をめどに重要な開発要素「ブランケット兼ダイバータ」の個別実証を完了し、2030年代中には、Helix HARUKAによる統合実証や、発電初号機「Helix KANATA」による世界初の実用発電を達成することを目指している。また、素材、燃料、部品、加工、製造、建設、通信など、さまざまな分野でHelix Programに参画するパートナー企業を募集している。
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