AIとバーチャルツインがもたらす産業DXの未来――問われる日本の製造業の姿勢:3DEXPERIENCE Conference Japan 2025(3/3 ページ)
ダッソー・システムズは、大阪で初となる年次イベント「3DEXPERIENCE Conference Japan 2025」を開催した。本稿では初日に行われた基調講演の模様をお届けする。
少しずつAIを取り込むだけではダメ
最後のゲストスピーカーは、早稲田大学大学院 教授の入山章栄氏だ。同氏は「DX×AI時代を勝ち抜くための成長戦略」と題し、講演を行った。
冒頭、入山氏は「現在、第2次デジタル競争時代に突入している」と指摘した。第1次デジタル競争は、スマートフォンに代表される新しいデバイスを軸に進行し、日本企業はGAFAなどに敗北した。しかし、その勝負は既に終わり、新たな第2ラウンドが始まっているという。
「これからはIoT(モノのインターネット)の時代だ。あらゆるモノがネットにつながり、AIと連携する。良い“モノ”がなければ勝負にならない時代が再びやってくる。つまり、モノづくりが再び返り咲く絶好の機会である。日本の製造業には大きなチャンスが訪れている」(入山氏)
こうした変化を加速させているのがAIの存在だ。既にAI活用に取り組む企業は増えているが、現在勢いがあるのは“アフターAI企業”である。起業時点でAIを前提としている新興企業、すなわちAIが当たり前の環境で生まれた企業に対し、「従来企業(ビフォアーAI起業)が少しずつAIを取り込むだけでは到底太刀打ちできない。これからは最初からAIを中心に据えた組織への変革が不可欠である」と入山氏は警鐘を鳴らす。
そして、今後は“プライベートAI”の活用が重要になると指摘する。入山氏は「『ChatGPT』などに代表されるパブリックAIが、インターネット上に公開されているデータしか扱えないのに対し、企業には未構造化データを含む膨大なデータが眠っている。これらを学習させた自社専用AI(プライベートAI)こそが競争力の源泉となる」と述べる。
ここで入山氏は、AI活用の真の目的は「イノベーションの創出にある。不確実性が高まる現代において、現状維持では生き残れない」と強調した。また、イノベーションの創出には「知の探索(Exploration)」と「知の深化(Exploitation)」のバランスが不可欠であるという。
知の探索とは、遠く離れた知を取り込み新しい価値を生み出すことであり、知の深化はそれを磨き上げ効率化する活動である。しかし、多くの日本企業は知の深化に偏り、知の探索が不足しているという。入山氏は「知の探索なくしてイノベーションは生まれない。製造業こそ探索型の知を取り込む組織文化を育てる必要がある」と説明する。
さらに入山氏は、AI時代の人材配置についても言及した。企業内の業務は「スマイルカーブ」の形で変化するという。上流の意思決定やリーダーシップはAIには代替できず価値が高まる。一方で、中流の管理/調整業務はAIが最も得意とする領域であり、急速に価値が下がる。下流の現場作業は完全にはAI化できず、人間の力が依然として必要とされる。「中流に多くの人材が集中する日本企業は、このままではAI化により大量の余剰人員が発生してしまう。人材を上流と下流にシフトさせることが重要である」と入山氏は訴える。
最後に入山氏は、AIが頭脳労働を担う時代に残るのは「感情労働」だと指摘する。接客業やB2B営業において、最終的に発注先を決めるのは感情であり、「何を言ったか」ではなく「誰が言ったか」が決定的な意味を持つようになるという。
「信頼こそが最大の競争力になる。日本の製造業は『現場が強い』という圧倒的な強みを持っている。AIとデジタルをうまく活用すれば、世界で再び飛躍できるだろう」(入山氏)
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