NTTと三菱重工がレーザー無線給電で世界最高効率、1kWを1km送光して152W受電:組み込み開発ニュース(2/2 ページ)
NTTと三菱重工業は、大気中のレーザー無線給電で世界最高効率を達成したと発表した。出力1kWのレーザー光を用いて1km先の受光パネルに無線でエネルギーを供給する光無線給電実験を実施し、効率で約15%に当たる152Wの電力を得ることに成功した。
最適な光電変換素子に置き換えることで効率のさらなる倍増が可能
今回の実験では、受光パネルから取り出せた電力が平均152Wとなり、送光パワーに対する受電パワーの割合を示す効率が15%となる光無線給電に成功した。この結果は、シリコン製の光電変換素子を用い、かつ、大気の揺らぎの強い環境下での世界最高効率の光無線給電実証になるという。なお、実験では30分間の連続給電にも成功しており、開発した技術を用いて長時間給電できることを確認している。
開発成果の要になるのはNTTの長距離フラットビーム整形技術と三菱重工業の出力電流平準化技術だろう。
長距離フラットビーム整形技術では、光電変換効率の向上に必要な光電変換素子に照射するビームの強度分布を長距離伝搬後も均一化できるビーム整形手法を提案した。ビームの外周部分は円すい型のアキシコンレンズの効果によってリング状のビームになり、ビームの中心部分は凹レンズの効果によってビームが広がるように位相を変調し、目的の距離を伝搬した後にリングビームと拡散ビームが重なりあうことで強度が均一になる。今回の実験では、1km先で所望の強度分布となるように設計を最適化し、回折光学素子を用いてビーム整形を実装し1km先でのビームの強度分布の均一性を向上させた。
一方の出力電流平準化技術は、長距離フラットビーム整形技術によってある程度ビームの強度分布を均一化しても、大気の揺らぎが大きい場合に長距離を伝搬したビームで生成されてしまう強度の高いスポットに対応するものだ。まず、受光パネルの手前にビームホモジナイザを設置して強度の高いスポットを拡散させて受光パネルに均一にビームが照射されるようにした。さらに、受光パネルの各光電変換素子にコンデンサーを用いた平準化回路を接続することで、大気の揺らぎによる電流の変動を抑制し出力の安定化を実現した。
これまで大気中におけるレーザー無線給電の研究開発では実証実験を基に効率が出せるレベルの成果が出ていなかった。このため、今回の成果は15%という効率を示したことで世界最高効率の達成も実現できた。今後の高効率化に向けては、入手性を優先して採用した一般的な太陽光発電パネルを用いた光電変換素子について、レーザー光の波長であり1070nmに合わせて設計した化合物半導体系の太陽光発電パネルを用いることで約2倍に高められる可能性があるという。併せて、より出力の大きいファイバーレーザーを用いればさらなる大電力の無線給電が可能になる。
無線給電の距離については、数kmまでは今回の開発成果と同じ方式で対応可能だとしている。ただし、数十kmのオーダーになる場合は、ビームの強度分布を均一化する別の手法を検討する必要がある。なお、1070nmのファイバーレーザーは大気中でのレーザーの減衰率は大きくないため、より長距離の無線給電における効率低下の影響は低いという。
マイクロ波無線給電に対するレーザー無線給電のメリットの一つが、レーザー光は指向性が高く広がりが小さいため受光装置を小型/軽量に設計できる点だ。このため、重量や搭載スペースに厳しい制約があるドローンやHAPSなどの移動体への給電に活用できる可能性がある。ただしレーザーの方向を制御する技術などが必要だ。これらの他、宇宙データセンターや月面ローバーへの電力供給や、静止衛星から地上へレーザーで電力を送る宇宙太陽光発電への応用なども期待できるとしている。
なお、今回の研究成果は、2025年8月5日付で英国の論文誌「Electronics Letters」に掲載された。
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