激戦の中国スポーツシューズ市場を勝ち抜くAntaがDXで成し遂げたもの:中国メーカーのデジタルプラットフォーム戦略(3)(5/5 ページ)
中国メーカーがグローバル市場で大きな存在感を示すようになって久しい。急激な発展の要因の1つに、同国が国家レベルで整備を進める「製造デジタルプラットフォーム」の存在が挙げられる。本連載では事例を交えながら、製造デジタルプラットフォームを巡る現状を解説している。第3回は、スポーツシューズメーカーである安踏(Anta)を取り上げる。
Antaに見る日本アパレル業界のDXへの示唆
日本のアパレル産業は、重要な伝統産業の1つだが、最近は国内縫製工場の衰退、サプライチェーンの非効率さ、デジタル化格差などに悩まされている。
縫製工場については、国内工場の衰退が著しく、海外依存が進んでいる。自社生産比率はわずか0.6%である一方で、国内縫製工場の高齢化率は67%(経済産業省2023年調査)であることから、海外の委託先に頼らざるを得ない傾向が強まっている。こうした依頼体制も含めて多品種少量生産体制に対応しきれず、平均リードタイムは増加傾向にあり、45〜60日(専門家調査)に達するという。
サプライチェーンの非効率化も進み、在庫回転数は年に4.1回程度にとどまっている。これは、ZARAが11回、Antaが6.8回であることを考えると非常に少ない数字だといえる(専門家調査、国際的にも6回以上が標準的)。
これらを解決する大きな原動力になるはずのデジタル化についても日本のアパレル産業は遅れている。EC化率は13.7%にとどまり、英国の29.6%、中国の48.0%に比べても低い水準だ(eMarketer調査)。DX人材の不足などもあり、カスタマイズ対応も難しいことから受注生産比率は2%未満で、これもAntaの15%などに比べると低い。
これらを見ると、日本のアパレル産業が国際的に厳しい競争環境に置かれていることが分かる。ただ、進むべき方向性は明らかだといえる。人口減少やサプライチェーン非効率のような慢性的な課題に対し、まずは以下のように生産系業務改革や自動設備の導入から製造DXやスマートファクトリーの構築を進めていくのがおすすめだ。ぜひ検討してみてほしい。
- ロボット縫製/自動裁断機の導入で、人手不足を補いつつ高精度生産を実現
- AI品質管理で検査コスト削減と歩留まり向上を両立
- デジタルツインで新製品の試作期間を短縮
次回は最先端製造業である商用衛星メーカーの銀河航天(Galaxy Space)を中心に、中国航空宇宙メーカーの製造デジタルプラットフォームを取り上げる。
⇒その他の「中国メーカーのデジタルプラットフォーム戦略」の記事はこちら
李 時豪(Adel Li)
首都大学東京(現東京都立大学)、HEC経営大学院(HEC Paris)ダブルマスター卒
日立製作所にて機械エンジニアを経験後、Accenture、Capgiminiでビジネスコンサルタント、セールスとしての経験を積み、製造業を中心にグローバル展開戦略構想策定からハンズオン型の実行支援まで広範なテーマに多数従事する。特に、中国、ヨーロッパ、東南アジアなどにおけるグローバル知見やネットワークが豊富。2022年にHopejets Consultingを創業し、製造業向けの海外進出戦略、グローバルM&A、IT戦略、PLM導入支援やグローバル人材のマッチングを実施している。
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