ソフト設計者が現場で困惑する機械屋からの追加要望【異常編】:設備設計現場のあるあるトラブルとその解決策(12)(2/2 ページ)
連載「設備設計現場のあるあるトラブルとその解決策」では、設備設計の現場でよくあるトラブル事例などを紹介し、その解決アプローチを解説する。連載第12回は、ソフトウェア設計者が現場で困惑してしまう、機械設計者からの追加要望【異常編】をテーマにお届けする。
異常が発生したときの機械の挙動は?
よく機械屋さんに「その異常が発生した際、機械にどういう挙動をさせればよいですか?」と質問すると、「機械を止める」とだけ言われることがよくあります。しかし、それだけではソフトの設計はできません。
というのも、「機械を止める」と一口に言っても、幾つかの種類があるからです。例えば、
- 即座に動力を遮断して、機械の動作を停止してほしいもの
- 動力は落とさず、一時停止のように停止してほしいもの
- サイクル運転が完了したタイミングで動作を停止してほしいもの
- 機械は止めず、復旧モードに自動移行し(例えば、ワークの強制排出など)、その後自動運転を再開するもの
などが考えられます。
さらに、同じ内容の異常だとしても、
- 機械の動作中であれば動力を遮断するが、停止中は異常としない
- 自動モードでは機械の動作を禁止するが、手動モードでは禁止しない
- タッチパネルで「異常の有効/無効を切り替えられる」ようにするが、「無効状態では〇〇の動作ができない」ようにする
- 特定のステーションだけ動力を落とす
といった条件が付随する場合もよくあります。
これらを踏まえて実装できるかを考えていくわけですが、その際、そもそもハードウェア(以下、ハード)に必要な機能が備わっているかを見直す必要が出ることもしばしばあります。
例えば、「ワークをチャックでつかみに行く際、そのワークが裏表反対になってしまったら異常で止めたい」とした場合には、そもそもワークの裏表を検知できるハードが必要です。また、異常を検知し、装置の一部だけを停止させる際には、下手をすると、前工程や次工程の機械との動きがかみ合わなくなり、不具合を起こすことも考えられます。
こうしたことは電気ハードにも当てはまり、特に安全に関わる異常機能では、PLCやラダー回路だけにとどまらず、「安全PLC」や「セーフティコントローラー」「セーフティリレー」や「マグネットコンタクター」といった機器の構成にも依存するケースが多々あります。そのため、「○○だけ動力を落として機械を止めたい」としても、電気ハード的に場合分けできないときには、「動力を落とすとなると、設備全ての動力を落とすしかない」こともあり得ます。
加えて、高確率で検討漏れしがちなのが「機械が止まった際の仕掛中の稼働データの取り扱い」です。
最近の生産設備では、稼働データ(サイクルタイムやNG品の数など)を保存しておきたいという仕様が一般的です。ただし、PLC内で保持できるデータ量はそこまで多くないため、SDカード、NAS、データベースへ保存することがよくあります。しかし、異常で停止した際にはそのデータは仕掛りとなるため、それをどのように扱うかという問題が発生します。
具体的には、
- 削除してもよいのか
- 中途半端でもよいから保存してほしいのか
- 保存する際に「異常で止まったことが分かるようなステータスを付与する」かどうか
などが挙げられます。
筆者の経験上、このことを機械屋さんに聞くと、「使うかどうかは分からないけれど、取りあえず一通り保存した上で、異常ステータスも保存しておいて」といわれるのですが、ほとんどの場合、現場作業の片手間で対応できる量をはるかに超える作業になります。
仕様書に記載がなければ、要望を出した時点で追加請求が発生する事案となるため、要望を出す前に「本当にそれを追加すべきかどうか」「追加するのであれば、そのための予算やスケジュールは確保できるか」を慎重に検討、判断しなければなりません。 (次回へ続く)
筆者プロフィール:
りびぃ
「ものづくりのススメ」サイト運営者
2015年、大手設備メーカーの機械設計職に従事。2020年にベンチャーの設備メーカーで機械設計職に従事するとともに、同年から副業として機械設計のための学習ブログ「ものづくりのススメ」の運営をスタートさせる。2022年から機械設計会社で設計職を担当している。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
いまさら聞けない 製品設計と設備設計の違い【前編】
社会や現場課題を解決するためのアイデアを考え、それを具現化する「機械設計」の仕事ですが、実は「製品設計」と「設備設計」で文化や仕事の進め方が大きく異なります。今回は【前編】として、「設計対象物」「QCDの優先順位」「新規性の有無」をテーマに“製品設計と設備設計の違い”を分かりやすく解説します。いまさら聞けない 製品設計と設備設計の違い【後編】
社会や現場課題を解決するためのアイデアを考え、それを具現化する「機械設計」の仕事ですが、実は「製品設計」と「設備設計」で文化や仕事の進め方が大きく異なります。【後編】では、製品設計と設備設計における「予算配分」「求められる知見」の違いに触れるとともに、「製品設計と設備設計のこれから」について言及します。若手エンジニアにありがちな強度設計ミス【前編】
連載「設備設計現場のあるあるトラブルとその解決策」では、設備設計の現場でよくあるトラブル事例などを紹介し、その解決アプローチを解説する。連載第1回は「若手エンジニアにありがちな強度設計ミス」をテーマに取り上げる。若手エンジニアにありがちな強度設計ミス【後編】
連載「設備設計現場のあるあるトラブルとその解決策」では、設備設計の現場でよくあるトラブル事例などを紹介し、その解決アプローチを解説する。連載第2回は、前回に引き続き「若手エンジニアにありがちな強度設計ミス」をテーマに取り上げる。設備の輸送や据え付け時に直面するトラブル
連載「設備設計現場のあるあるトラブルとその解決策」では、設備設計の現場でよくあるトラブル事例などを紹介し、その解決アプローチを解説する。連載第3回は「設備の輸送や据え付け時に直面するトラブル」をテーマに取り上げる。保全担当者が苦情を言いたくなる「メンテナンス性の悪い設計」
連載「設備設計現場のあるあるトラブルとその解決策」では、設備設計の現場でよくあるトラブル事例などを紹介し、その解決アプローチを解説する。連載第4回は、保全担当者が苦情を言いたくなる「メンテナンス性の悪い設計」をテーマに取り上げる。