ソフト設計者が現場で困惑する機械屋からの追加要望【異常編/後編】:設備設計現場のあるあるトラブルとその解決策(13)(1/2 ページ)
連載「設備設計現場のあるあるトラブルとその解決策」では、設備設計の現場でよくあるトラブル事例などを紹介し、その解決アプローチを解説する。連載第13回は、前回に引き続き、ソフトウェア設計者が現場で困惑してしまう、機械設計者からの追加要望【異常編】をテーマにお届けする。
本連載は、前回シリーズ「いまさら聞けない 製品設計と設備設計の違い」をイントロダクションと位置付け、設備設計の現場でよくあるトラブル事例などを紹介し、その解決アプローチを解説していきます。
今回のテーマ:ソフト設計者が困惑する機械屋からの追加要望【異常編】
今回は、前回に引き続き、ソフトウェア設計者(以下、ソフト設計者)が現場で困惑してしまう、機械設計者からの追加要望【異常編】をお届けします。
異常の復旧方法
機械設計者、または機械系出身の人(以下、機械屋さん)から「異常の通知が出るようにしてほしい」と要望があった際、ソフト設計者は、つい異常の通知を出すことばかりを考えてしまいがちです。しかし、本来同じくらい重要であるはずの「復旧方法」については、検討漏れとなることが少なくありません。
例えば、「A地点からB地点までワークをチャックして搬送する装置で、途中でワークを落下させてしまったら、異常で停止するようにしてほしい」という要望があったとします。
この場合、確かに単に設備を止めるだけであれば、自動運転用の自己保持回路(一度オンにした信号を保持して動作を継続させる制御回路のこと)を解除して動作を停止させることはできます。しかし、このときの設備は、
- 各アクチュエーターが原点にいない
- ワークをハンドリングしている最中
- 前後工程の装置も中途半端に停止している状態
など、さまざまな工程が“仕掛かり中”の状態にあります。では、ここからどのようにして復旧させるのでしょうか? 異常からの復旧機能を実装する際には、当然、復旧に関わる動作の仕様も定義しておく必要があります。
一般的には「原点復帰をさせた後に再開できるようにする」という仕様が多く採用されます。しかし、その原点復帰を行うためのインターロック(干渉防止などを目的とした安全機構)として、「一度、装置内からワークを全て外に出す必要がある」という仕様になっているケースも少なくありません。では、ワークをどのように設備の外へ取り出すのでしょうか?
お客さまによっては、「タッチパネル操作などで手動操作によりワークを取り出せるよう、強制払い出し機能を付けてほしい」という要望を出されることがあります。しかし、これは現場作業の片手間で実装できる範囲を超えた機能要件であるため、あらかじめ仕様書に明記しておくことが重要です。
ただし、あらゆる異常復帰が強制払い出しで対応できるとは限らない点には注意が必要です。例えば、設備の不具合の原因を調査してみると、「アクチュエーターに異物がかみ込んでしまい、タッチパネル操作などではどうしようもできない」といったケースも考えられます。そのようなときは、設備の動力を落とした状態でメカ的に復旧できるようにしておく必要があります。
メカ的に復旧というのは、
- メンテナンス用の扉が設置されている場合には、扉を開けて作業者が手作業でワークを取り出す
- 設備内に作業者が入り込み、手作業でワークを取り出す
- 設備のカバーなど、一部の部品を分解してワークを取り出す
といったように、人の手によって行う作業のことを指します。
ソフト設計者は、「最悪どうにもならなくなったら、取りあえず再起動すれば復旧できるようにする」という対応を取ることがあります。しかし、メカ的な異常については再起動ではどうにもならないため、こうした異常に対しては、エンドユーザーの担当者や設備メーカーの技術マネジャーなどの間で、あらかじめ合意や対策を取り決めておく必要があります。
運転再開の条件
物理的な復旧ができたとしても、運転を再開するための条件については、依然としてソフト面で検討すべき点が残されています。
ここでは、先ほどのチャック搬送装置を例に考えてみましょう。
装置内にワークが1つもなく、かつ全てのアクチュエーターが原点にある状態で運転を再開するのであれば、比較的簡単です。そもそもソフトを設計する際には、この状態から設備を稼働させられるようにしているからです。
しかし、「異常停止する直前まで投入されていたワークを全て破棄するのはもったいない。品質に問題のない仕掛かりワークについては、原点復帰後に元の位置へ再配置し、自動運転を再開できるようにしてほしい」という要望を受けることもあります。
確かにこのような仕様は便利ですが、その一方でソフト設計は一気に複雑化していくことになります。その主な理由は3つあります。
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