三菱電機が米国企業に過去最大の買収額を投じた2つの狙い:産業制御システムのセキュリティ(2/2 ページ)
三菱電機は、米国のOTセキュリティ企業Nozomi Networksを完全子会社化すると発表した。その目的について解説する。
OTセキュリティ事業以上の成長をSerendie事業で実現
買収のもう1つの目的は、Serendie関連事業の強化だ。
Serendieは同社のDXイノベーションセンターが中心になって構築したデジタル基盤であり、三菱電機のハードウェアやソリューション、またはユーザーの持つ機器などから得られたデータを用いた新たなサービスの提供を目指している。三菱電機ではSerendie関連事業において、2030年度に1兆1000億円の売り上げを目標に掲げている。Serendie関連事業はデータを収集するコンポーネントとデータを活用するソリューションで構成される。Nozomi Networksのアセットをフル活用することで、Serendie事業のスケール化を加速させる。
「当初の資本提携はOTセキュリティ事業の強化だったが、それにとどまらず、データをセキュアに手に入れ、利活用することによってSerendie事業の飛躍的な拡大が見込めると判断をして今回の買収に踏み切った。Serendie事業の伸びが、OTセキュリティ事業の伸びを上回ると見込んでいる」(武田氏)
具体的には、Nozomi NetworksのSaaS商材やクラウドサービス基盤、AI技術を取り込んでSerendieの質的強化を図る。また、Nozomi Networksの技術を三菱電機の製品に実装する。これは既にPLC向け侵入検知センサーとして一部実現している。さらに収集データを活用した新たなサービスによって、製造業に加えビルやインフラなどへ価値提供先を拡大する。
「データを取るとなると、セキュリティが鍵になる。コンポーネントから得られるデータをセキュアに管理しながら、ソリューションにつなげる仕組みが欠かせない。そこでOTセキュリティのツールが必要になる。また、集めたデータをAIで分析したり、それを基にしたサービスを提供したりするビジネスモデルを既に実現しているのも、Nozomi Networksの強みだ」(武田氏)
製造現場には多種多様な機器が稼働し、さまざまな通信プロトコルでデータをやりとりしており、実際にはデータ収集は容易ではない。それはビルやインフラにおいても同様だ。その中でNozomi Networksのソリューションは「さまざまな機器からデータを吸い上げ、流れてきた生のデータに対して意味付けをして、異常などを検知できる。100以上の通信プロトコルに対応しており、異なるレイヤーで流れてきた異なるプロトコルのデータに対しても、しっかり意味付けして分析できるようになっている。そういった技術が今後、OTセキュリティを超えた、データ利活用のビジネスのベースになると考えている」(三菱電機 専務執行役 インダストリー・モビリティBAオーナー 加賀邦彦氏)。
なお、買収は今回の取引のために設立した米国の完全子会社(特別目的会社)とNozomi Networksとの合併を通じて実施する。
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