三菱電機が米国企業に過去最大の買収額を投じた2つの狙い:産業制御システムのセキュリティ(1/2 ページ)
三菱電機は、米国のOTセキュリティ企業Nozomi Networksを完全子会社化すると発表した。その目的について解説する。
三菱電機は2025年9月9日、オンラインで記者会見を開き、同日発表した米国のOTセキュリティ企業Nozomi Networksの完全子会社化について説明した。買収金額は8億8300万ドル(約1300億円)で、三菱電機にとって過去最大の買収金額となる。三菱電機は規制当局の承認など、2025年中の手続き完了を見込んでいる。
三菱電機 専務執行役 CDO(DX、ビジネスイノベーション担当)の武田聡氏は「三菱電機が持つOT領域での強みとNozomi Networksの最先端の技術の融合により、グロールナンバーワンのOTセキュリティプロバイダーを目指す。また、両社の多種多様な顧客基盤から得られるデータを活用し、われわれのデジタル基盤『Serendie』をグローバルで飛躍させる」と意気込む。
OTセキュリティの事業規模を10年で10倍の成長図る
買収の1つ目の目的は、OTセキュリティ事業の強化だ。
2016年に設立されたNozomi Networksは電力、鉄道などの社会インフラや自動車などの製造業にOTセキュリティソリューションを提供しており、2024年12月期の売上高は7469万ドル(約110億円)、粗利率は70%超になるという。また、2022〜2024年のCAGR(年間平均成長率)は33%となっている。
現在、スイスに開発拠点、米国サンフランシスコに本社を置く。ワイヤレス通信を含むOT環境からのデータ収集技術や、リアルタイムでの異常検知を可能とする侵入検知技術、多様なOT/IoTデバイスを網羅する可視化技術、さらにAIを活用した高度な分析サービスなどを強みとしている。
幅広い産業におけるデジタル化の進展によって、サイバーセキュリティの重要性が増している。特に製造業では、IoT機器の普及で従来工場内で閉ざされていたネットワークが外部環境とつながる機会が増え、サイバー攻撃を受けるリスクが高まっている。グローバルでサイバーセキュリティに関する標準規格の策定や法規制の整備が進んでおり、OTセキュリティの市場規模は2025年の2兆9000億円から、2035年には15兆円にまで拡大するとの予測もある。
三菱電機は2023年から本格的にOTセキュリティ事業を立ち上げており、パートナー企業と協力して現場のリスクアセスメントから対策、運用まで、ワンストップソリューションを提供している。2024年にはNozomi Networksに出資し、現在は7%の株式を保有している。今回の取引で残りの93%を取得する。
Nozomi Networksの完全子会社化によって、OTセキュリティ事業を抜本的に強化する。三菱電機のOTの知見を生かしたアセスメントノウハウやセキュリティコンポーネントを組み合わせた提案力と、Nozomi Networksのネットワーク可視化技術やAIセキュリティ分析などを融合させ、付加価値の高いOTセキュリティソリューションを提供する。
「今回の買収で、高い成長が見込まれるOTセキュリティ領域において一気に事業基盤を拡大し、三菱電機とNozomi Networksの強みの融合によりグローバルナンバーワンのセキュリティソリューションプロバイダーを目指す。OTセキュリティ事業を10年後に10倍の事業規模にする」(武田氏)
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