日本の技術が欧州の脱炭素を加速、旭化成らが次世代の食塩電解技術確立に挑戦:工場ニュース
塩素、水素、苛性ソーダの生産で役立つ食塩電解プロセス。この分野で50年の歴史を持つ旭化成が、ドイツとポルトガルの企業と手を組み、新たな挑戦を始めた。従来の方法とは一線を画す食塩電解プロセスの新運転手法を駆使し、電力消費のさらなる削減と資源の有効活用を目指す。
旭化成は2025年9月2日、30カ国/160工場以上で採用されているイオン交換膜法食塩電解プロセスのサプライヤーとして、同プロセスのエンジニアリングを行うCAC Engineering(本社:ドイツ、以下CAC)と協業し、ポルトガルの大手化学企業であるBondalti Chemicals(本社:ポルトガル、以下Bondalti)のEstarreja工場(ポルトガル)において、同プロセスの商業運転を開始したと発表した。
実証試験で使用した食塩電解セルと電極の金属リサイクルも実施予定
現在、欧州連合(EU)で適用されている「CBAM(国境炭素税)」などの脱炭素規制強化策や「CSRD(企業サステナビリティ報告指令)」による情報開示強化に合わせ、欧州のクロールアルカリ産業でも、製品の製造過程での電力使用量や資源効率までを含めた環境負荷が評価されている。さらに電力価格の高騰も重なり、電力消費の削減と資源の有効活用がこれまで以上に重要な課題となっている。
こうした状況を踏まえ、旭化成、CAC、Bondaltiの3社は、イオン交換膜法食塩電解プロセスを構成するEstarreja工場に設置した9槽の電解槽のうち1槽を「実証実験槽」として活用し、通常運転と並行して実証試験を行う。
旭化成は50年にわたる事業実績からの経験に加え、2020年に買収したRecherche 2000の運転監視システムやソフトウェア解析サービス、新形状電極の開発技術までを組み合わせた包括的なソリューションを提供する。このソリューションとCACの高度なエンジニアリング技術やBondaltiの運転技術を連携させて、欧州のエネルギー戦略に適応した運転条件の調整など、従来では難しいとされてきた新たな運転手法にも挑戦する。
これらにより、電力消費量のさらなる削減と資源の有効活用を図り、環境負荷の低減を目指した次世代の食塩電解技術の確立に取り組む。
また、旭化成が主導する金属リサイクルのエコシステム構築に向けた取り組みの一環として、今回の実証試験で使用した食塩電解セルと電極の金属リサイクルを行う予定だ。
今回の取り組みは、ポルトガル政府の国家戦略「Recovery and Resilience Plan」の支援を受けており、Bondaltiが掲げる脱炭素目標の達成を後押しする。EUの「NextGenerationEU」基金を活用したRecovery and Resilience Planは、ポルトガルではグリーントランジションや産業競争力強化を目的とした投資/改革が推進されている。
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