富岳NEXTの開発は「Made with Japan」、NVIDIAが加わりアプリ性能100倍の達成へ:人工知能ニュース(2/2 ページ)
スーパーコンピュータ「富岳」の次世代となる新たなフラグシップシステム「富岳NEXT」の開発体制が発表された。理研を開発主体に、全体システムと計算ノード、CPUの基本設計を富士通が担当する一方で、GPU基盤の設計を米国のNVIDIAが主導するなど「Made with Japan」の国際連携で開発を推進する。
「世界最高のAI時代のCPUとGPUで世界最高のスパコンを作る」
富岳NEXTは、富岳をはじめ既存のスパコンが追求してきたシミュレーション性能だけでなく、シミュレーションとAIの双方において世界最高水準の性能を達成し、さらに両者が密に連携して処理を行うことができる「AI-HPCプラットフォーム」となることが求められている。
富岳NEXTでは、富岳で培ってきたArmベースのCPU技術を拡張しつつ、GPUを加速部として搭載し、シミュレーションおよびAIのアプリケーションの実行性能の最大化を目指す。その性能目標は、富岳と比べて最大100倍程度のアプリケーションの高度化および高速化となっている。
そのためにはハードウェアだけでなくソフトウェアやアルゴリズムとの総合的な技術革新が必要になる。そこで、理研が強みを持つソフトウェアやアルゴリズム技術と富士通が持つCPU/システム化技術、NVIDIAが持つGPUに関する技術およびエコシステムを活用して3者による開発を推し進めて競争力のあるシステムを開発し、グローバルマーケットへの展開を通じた世界的なエコシステムを構築する方針だ。
理研 計算科学研究センター センター長の松岡聡氏は「富岳のアーキテクチャを受け継ぎつつ、AIを科学的プロセスに活用していく『AI for Science』の中核となる計算インフラを作っていく。加速部のGPUは、オフザシェルフで既存の製品をそのまま適用するわけではない。富士通は世界最高のAI時代のCPUを、NVIDIAももちろん世界最高のAI時代のGPUを開発して、理研とともにそれらを擁した世界最高のスパコンを作ることが目標だ。それによってわが国がAI先進国として世界に訴求力を持ち、確たる地位を確立できる」と説明する。
富岳NEXTの目標に掲げる、富岳と比べて最大100倍程度のアプリケーションの高度化および高速化の達成は、同様に京と比べて性能100倍を目指した富岳とは道筋が異なる。
富岳は、京と比べてハードウェア性能が約40倍となるなどハードウェアベンダーの貢献が大きく、理研が主導したソフトウェア性能は同約3倍の貢献だった。これに対して富岳NEXTは、ハードウェア性能の貢献は京と比べて富岳の最大6倍程度にとどまり、ソフトウェア性能の貢献は同最大20倍となって逆転する。松岡氏は「理研とパートナーが培ってきた新たなシミュレーション技術やそれに根差した新たなアルゴリズムを強化するとともに、加速部となるAIハードウェアの新たな特性を生かすことでソフトウェア性能の向上を目指し、総合的に100倍を達成する」と語る。
なお富岳NEXTのAIハードウェア性能は、NVIDIAが担当するGPUだけでなく、富士通が担当するCPUでもCPUとして世界最高性能を目指し、富岳と比べて最大300倍の600E(エクサ、10の18乗)FLOPS以上(FP8、スパース)が目標となる。「まさにエクサスケールの1000倍であるゼタ(Zetta、10の21乗)スケールの時代の入り口に富岳NEXTが位置することになるだろう」(松岡氏)。
CPUは「MONAKA-X」、GPUは「Feynman」の後継か
富岳NEXTのCPUには、富士通が現在開発中の汎用CPU「FUJITSU-MONAKA」を発展させた後継CPU「FUJITSU-MONAKA-X」(仮称)を採用する。FUJITSU-MONAKA-Xは、超メニーコアとSIMD(Single Instruction, Multiple Data)機能拡張による高いスケーラビリティで、数値シミュレーションなどHPC(高性能コンピューティング)アプリケーションに対し高い処理性能を発揮する。加えて、サーバ用として世界初となる行列演算エンジンの「Arm SME」をCPU内に内蔵することでし、低レイテンシ(遅延時間)なAIモデルの推論処理の実現を目指す。
FUJITSU-MONAKAはTSMCの2nmプロセスで製造し2027年に市場投入する予定である。富士通 執行役員副社長 CTO、システムプラットフォーム担当のヴィヴェック・マハジャン氏は「FUJITSU-MONAKAから2年ごとに新規のプロセッサを投入していく計画だ。FUJITSU-MONAKA-Xの次も、ダブルエックス、トリプルエックスと出し、AI for Scienceを継続的に支えていく」と述べる。
なお、FUJITSU-MONAKA-Xは1.4nmプロセスの予定であり、富岳NEXTに採用されるGPUとの間で広帯域データ転送による密結合も想定した設計を行う。最先端の接続方式の採用を検討する他、先進的なメモリ技術の採用も視野に入れつつ基本設計を実施するという。
今回、富岳NEXTの開発パートナーに選定されたばかりのNVIDIAからは具体的にどのようなGPUアーキテクチャを提供するかなどの説明は行われなかった。NVIDIAの発表ベースで最新のGPUアーキテクチャは2028年投入予定のFeynman(ファインマン)だが、富岳NEXTの稼働時期を考慮すると2029年投入予定のFeynmanの後継が採用されるとみられる。
NVIDIA ハイパースケールおよびハイパーフォーマンスコンピューティング担当副社長のイアン・バック氏は「日本のスーパーコンピュータへの協力は、松岡氏が設計を主導し2009年に稼働した『Tsubame 1.2』から始まり15年以上になる。このTsubame 1.2の処理性能が約70TFlopsであり、富岳NEXTのAI処理性能は600EFlopsで約100万倍に達することになる。理研には2017年にGPUスパコンの『DGX-1』を導入しており、今回の富岳NEXTで再び戻ってくることができてうれしい。未来を築くには補完的で世界最高水準の専門性を持つチームが必要であり、それこそが富士通、理研、NVIDIAのチームだ」と述べている。
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