数カ月が数週間に! テルモが挑んだ「素材開発の“探索”を変えるDX」:素材/化学インタビュー(2/2 ページ)
医療機器メーカーのテルモは、スクリーニングステップ「Material Discovery」を構築。これにより、医療機器用新素材のプロトタイプの開発期間を大幅に短縮し、部門間の連携も強化した。いったいどのようにして、この飛躍的な効率化を実現したのか。テルモの挑戦に迫る。
既存のツールを組み合わせた検索ソリューションとは?
MONOist Material Discoveryの概要と特徴について教えてください。
倉本氏 Material Discoveryは、米国のエンジニアリングソリューションメーカーであるACCURISが開発した知識検索ソリューション「Goldfire(ゴールドファイア)」やカナダのAdvanced Chemistry Developmentの物性評価ツール「ACD/Percepta(パーセプタ)」、オランダの出版社であるElsevierの化学データベース「Reaxys(リアクシス)」を組み合わせて実現している。
倉本氏 Material Discoveryの作業手順は以下の通りだ。まず、Goldfireのセマンティック検索により、対象の医療機器で求められる機能(潤滑性など)を持つコーティング素材を幅広く探索する。セマンティック検索は、ACCURISが開発した文書解析技術で、文を構成する主語、述語、目的語、文節間の係り受けを分析し、これらの関連性を考慮した検索や分析が行える。
次に、Goldfireで導出した候補の物性をPerceptaで予測する。Perceptaでは、「水あるいは油に溶けやすい」などの物性を示す定量的な指標を予測でき、対象の医療機器の条件に適したコーティング素材の構造を絞り込める。加えて、ある程度の毒性予測にも対応するため、この段階でリスクの高い物質を除外できる。
続いて、Reaxysのデータベースを利用して、適切な合成プロセスや反応条件の候補を探索する。つまり、Material Discoveryは検索ソリューションであり、コーティング素材に関するデータベースの活用を効率化できる他、合成プロセスや反応条件の知識をアップデート可能だ。Material Discoveryを利用することで、新たな医療機器で使用するコーティング素材の開発を依頼された際に、求められる特徴や合成プロセス、反応条件の仮説を立てやすくなっている。
MONOist Material Discoveryの導入によって、どのような成果が生まれていますか?
倉本氏 Material Discoveryの導入成果は大きく分けて「開発期間の短縮」「部門間のコミュニケーション改善」「意思決定の迅速化」「グローバルでの展開」の4つが挙げられる。
「開発期間の短縮」では、これまで数カ月かかっていたコーティング素材のプロトタイプの開発が、最短で1〜2週間に短縮された。これにより、失敗した仮説をすぐに切り捨て、次のアプローチに移行できるようになった。
「部門間のコミュニケーション改善」では、製品開発部門とコーティングチームが、Material Discoveryを介して早い段階から新たな医療機器の実現可能性を議論できるようになり、開発体制が改善された。
「意思決定の迅速化」では、スピーディーに得られる判断材料が増えたことで、開発の方向性を早期に決定できるようになった。
「グローバルでの展開」では、Material Discoveryを活用した成功事例が海外拠点にも展開され、国内外の拠点でMaterial Discoveryを用いた新たなコーティング素材の共同開発プロジェクトが立ち上がるなど、グローバルな連携が活発化している。
AIエージェントの活用も視野に
MONOist 今後の展開について教えてください。
倉本氏 今後は、コーティング素材だけでなく、他の医療機器の材料開発にもMaterial Discoveryを活用できるようにしていきたい。また、Material Discoveryを全社の標準ツールとして定着させ、国内外の拠点が連携したグローバルな素材開発の加速にもつなげたいと考えている。
将来的には、現在は経験豊富なエンジニアが担っている、新たな医療機器で求められる素材の特徴や合成プロセス、反応条件の仮説を立てる作業に、エージェント型AI(人工知能)を活用することで、人間のバイアスを取り除き、新素材の開発成功確率が高いアプローチを導出することも検討していきたい。
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