AIとセンサーで古米が絶品ご飯に パナソニックの新型炊飯器が見せた技術力:人工知能ニュース
パナソニックは可変式IHジャー炊飯器「ビストロ X9Dシリーズ」を2025年9月上旬に発売する。本稿では、そのAIとセンサー技術を中心に紹介する。【訂正あり】
パナソニックは2025年8月5日、東京都内でプレス向けに、可変圧力IHジャー炊飯器「ビストロ X9Dシリーズ(以下、X9Dシリーズ)」の新製品体験セッションを開催した。SR-X910D(5.5合炊き)/SR-X918D(1升炊き)の2品番を展開し同年9月上旬に発売する。本稿では、新製品に搭載されたAIとセンサー技術を中心に紹介する。
【訂正】初出時、可変圧力IHジャー炊飯器の表現に誤りがありました。可変圧力IHジャー炊飯器と訂正しました。[編集部/午前12時50分]
X9Dシリーズは、独自の圧力技術の急減圧とIH(電磁誘導加熱)技術の高速交互対流による炊き技「Wおどり炊き」と、米の状態に合わせて炊き方をコントロールする独自AI(人工知能)「ビストロ匠技AI」が進化した、パナソニックが展開してきた「おどり炊き炊飯器」の最新型である。従来品と比べた際に炊き上げたご飯の甘みが8%向上し、精米後時間が経過した古米でも甘みを引き出せるようになったとする。
調理方法は9600通り 長年のノウハウが詰まったビストロ匠技AI
パナソニック くらしアプライアンス社 キッチン空間事業部 調理機器BU 国内マーケティング企画センター 商品企画課 課長の林田章吾氏は「ビストロ匠技AIは米の状態を見極めて炊飯器のエンジンであるWおどり炊きをコントロールする役割を担っている」と語る。
ビストロ匠技AIは、2023年3月にビストロシリーズとして本格的に導入した。パナソニックの長年にわたる炊飯技術の歴史とノウハウがビストロ匠技AIに蓄積されており、9600通りの炊き方の中から米の状態に合わせた最適な炊き方を選択する。
ビストロ匠技AI開発のために、米の状態や水温/水加減、室温/温度などの炊飯に必要な要素について、多様な米を取り寄せデータを取得し、今まで培ってきたノウハウを含めつつおいしく米が炊ける条件をAIに学習させ、検証を行った。
学習させた内容は、炊飯時の米の状態に合わせた、炊き方パラメーターを決める際に大きな役割を果たしている。ビストロ匠技AIは、炊飯器に搭載されたセンサーが検知した結果に基づいて、釜内の水分量の把握や圧力をかける時間、IHの火力など、複数のパラメーターを組み合わせて炊き方を決定する。ユーザーは炊飯プログラムを設定する必要がなくなり、炊飯ボタンを押すだけで、どのような状態の古米でもビストロ匠技AIが自動で最適な炊飯プログラムにチューニングする。
新搭載のリアルタイム赤外線センサーでAI精度が向上 適切な温度管理を実現
X9Dシリーズは、新たなセンサーを加えることにより、ビストロ匠技AIの精度がさらに向上し、米をより甘く炊き上げるため適切に温度を管理できるようになった。
従来品は「釜底温度センサー」「沸騰検知センサー」「リアルタイム圧力センサー」という合計3つのセンサーを搭載しており、炊飯器内の温度管理は炊飯器の底にある接触型の釜底温度センサーが行っていた。今回のX9Dシリーズは、従来の3つのセンサーの他に、新たなセンサーである「リアルタイム赤外線センサー」を追加し、より細かな温度の検知が可能になった。
リアルタイム赤外線センサーは、接触型の温度センサーである釜底温度センサーに対して非接触であり、さらに分解能0.1℃の精細さで温度変化をリアルタイムに検知して、炊飯器内の温度をより細かく管理できる。接触型の釜底温度センサーは炊飯器内を安定した温度で管理することには適しているものの細かな温度変化には対応できなかった。今回、新たに追加した非接触型のリアルタイム赤外線センサーと従来の接触型の釜底温度センサーを組み合わせることにより、米がおいしく炊ける炊飯器内の温度帯を長時間維持できるようになった。
なお、リアルタイム赤外線センサーは炊飯器の側面に設置しているが「このセンサーの位置にもこだわりがある」(担当者)という。リアルタイム赤外線センサーの位置について、初めは炊飯器の上側に設置した方がいいという意見が出たが、湯気の影響で正確に温度を測ることができないと判断して上側の設置は避けている。最終的な設置位置は、釜底のセンサーとの連携を考慮しつつ、最も正確に温度を検知し情報を取り込める最適な高さに設定した。現在の位置関係に落ち着くまで約1年の期間を要した。
X9Dシリーズに搭載されている「ダイヤモンド竈釜」もセンサーと相性がいい。ダイヤモンド竈釜は薄くて軽いが、この特徴はリアルタイム赤外線センサーが釜内の温度を正確に測る上でも重要な役割を果たす。「もし釜が厚いと、釜の温度と実際の米の温度に差が出てしまい、正確な温度検知が難しくなる。薄いダイヤモンド竈釜だからこそ、センサーが正確な温度を検知して釜内の状態を細かく把握できる」(担当者)。
パナソニック くらしアプライアンス社 キッチン空間事業部 調理機器ビジネスユニット Panasonic Cooking@Lab 主任技師の萩成美氏は「AIやセンシング技術を活用することで、ユーザーが使用する環境や条件を考慮して、どこでもおいしく調理ができる製品を開発することができ、ユーザーに食のおいしさを実感していただける」と語り、AIとセンサーがもたらす調理家電の可能性を強調した。
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