熟練職人の焼成技術を再現、ユーハイムが開発したバウムクーヘン用AIオーブン:人工知能ニュース
ユーハイムは2020年11月30月、同社の熟練職人の技術を学習させた「世界初」のバウムクーヘン専用AIオーブン「THEO(テオ)」を開発したと発表した。AIがバウムクーヘンの最適な焼き上がり具合を判定して、自動的に調理する。開発プロジェクトには遠隔操作ロボット(アバター)ロボティクスを用いた事業展開を行うavatarin(アバターイン)が参画している。
ユーハイムは2020年11月30月、同社の熟練職人の技術を学習させた「世界初」(ユーハイム)のバウムクーヘン専用AI(人工知能)オーブン「THEO(テオ)」を開発したと発表した。AIがバウムクーヘンの最適な焼き上がり具合を判定して、自動的に調理する。開発プロジェクトには遠隔操作ロボット(アバター)関連事業を展開するavatarin(アバターイン)が参画しており、同社の技術を用いた取り組みを今後進める予定。
勤続40年以上の職人の焼成技術を学習したAI
THEOの外形寸法は高さ90×幅77×奥行き75cmで、重量は130kgとなっている。消費電力は5.4kW。バウムクーヘンを1本あたり約30分で焼成可能だ。THEOの側面にはavatarinの開発した遠隔コミュニケーションロボット「newme(ニューミー)」の技術を用いたディスプレイやデバイスなどが取り付けられている。
THEOはユーハイムのバウムクーヘン職人の焼成技術を学習させた画像認識AIを組み込んでいる。これによって、バウムクーヘンの焼き上がり具合を1層ずつ確認しながら自動的に調理する仕組みを整えた。THEOの正面部分には「日本製の高速伝送イメージセンサー」(ユーハイム)を備え付けており、これで焼き具合を確認する。AIが最適な焼き具合だと判断すると、バウムクーヘンを支える中心軸ごと動かして、生地の素が入ったトレイに漬けて新たな生地層を作り、トースター内に戻して再び焼成する。
なお、ユーハイムの担当者によるとTHEOのオーブン機構自体はユーハイムが設計、製造したが、AIは協力会社との連携のもと開発したという。
ユーハイム 代表取締役社長の河本英雄氏はTHEOの開発過程を振り返り、「THEOに搭載するAIは現在3パターン分を用意している。合計40年以上勤務する当社随一の熟練職人を始め、合計3人分の焼成技術をカメラなどで撮影して学習データを作り、それぞれのAIを作成した。当初、職人の間ではAIを使うことへのある種の抵抗のようなものもあった。ただ、実際にTHEOの開発プロジェクトを進める中で、自身の焼成技術が各種データによって可視化されることで、自身の技術を見直す機会になり得るといった気付きも得られたようだ。前出の熟練職人は自分の焼き方を改めて見直すことで、より柔らかな仕上がりのバウムクーヘンを作り上げられるようになった。AIを用いた自動調理機器の導入は、当然工場の省人化などにも役立つが、職人のクリエイティビティを刺激する側面もある」と語った。
avatarinの技術を活用した、遠隔地での菓子製造も構想
ユーハイムはTHEOの将来的な展開として、avatarinの遠隔コミュニケーション技術などを活用した新たな取り組みも構想する。avatarinの担当者は、具体的な構想として固まっているわけではないと前置きしつつも、「例えば、THEOのオーブン内の温度やバウムクーヘンの焼き具合の進捗状況に応じて、ディスプレイの表情を『暑がっている様子』や『楽しそうな様子』に切り替えて表現することは可能だろう。また、バウムクーヘンの材料生産者と、バウムクーヘンの買い手がコミュニケーションを取るなど、新たな関係性構築にもつなげられるのではないか」と語る。
また、ユーハイムの担当者は「当社がTHEOの開発プロジェクトをスタートしたのは5年前の2015年から。もともとTHEOは『地球の裏側に位置する南アフリカ地域にも、バウムクーヘンを届けたい』という思いから立ち上がった開発プロジェクトだった。南アフリカには菓子職人や材料の不足などさまざまな課題があるため、これまで実現は難しかった。しかし、THEOやavatarinの遠隔操作技術などを用いればこうした目標も実現できるのではないかと考えている」と説明した。
なお、avatarinでは遠く離れた2拠点間で通信を行う際に、通信遅延を抑えるハードウェアやソフトウェアなどを開発している。こうした技術も国内から離れた地点でバウムクーヘン生産を行う際に役立つ可能性もある。
2021年3月に愛知県名古屋市で開業する「食の未来」をテーマとした複合施設「バウムハウス」内で、THEOを導入したショップをオープンする予定。現時点では、THEOの外販などは検討していない。
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