ペロブスカイト太陽電池の低コスト化を加速、独自の電子輸送層成膜技術を開発:材料技術
住友重機械工業は、安価な材料を用いた低環境負荷のプロセスにより、ペロブスカイト太陽電池の電子輸送層を形成する技術を開発した。
住友重機械工業は2025年8月18日、安価な材料を用いた低環境負荷のプロセスにより、ペロブスカイト太陽電池の電子輸送層を形成する技術を開発したと発表した。
電子輸送層は、発電層(ペロブスカイト層)の上部または下部に成膜され、電気の素となる電子をペロブスカイト層から電極へスムーズに流す役割を担う。そのため、ペロブスカイト層から電子を適切に受け取れる特性に設計(伝導帯準位設計)することが重要だ。一定以上の温度になると破損するペロブスカイト層を損なわないで成膜する必要もある。
これらの理由から、ペロブスカイト太陽電池は、高エネルギーの粒子や高温環境を使用する従来の電池製造方法をそのまま採用できない。そこで、各メーカーでは化学的な成膜方法の適用を検討しているが、高価な材料の利用や低い量産性、原料ガスの有毒性/可燃性といった点で課題がある。
それらの解決策として、住友重機械工業の技術研究所では、プラズマガンから放出される電子を磁場により蒸発材料に導き、加熱により昇華した材料を高密度プラズマ中で活性化させることで高い反応性を持たせる独自の成膜方法「反応性プラズマ蒸着法(RPD法)」を活用し、ペロブスカイト太陽電池の電子輸送層に適する酸化スズ(SnO2)のみの膜を形成する技術を開発した。
RPD法は物理気相成長法(PVD)の1種で、「低温/低ダメージ」「大面積/高速成膜」「危険性がなく、環境負荷も小さなガスの利用」などの特徴があり、ペロブスカイト層上への成膜や量産性、環境親和性に適している。SnO2は安価に手に入る金属酸化物で、PVDで成膜すると優れた導電性を持つ。
しかし、電気の通りが良くなりすぎると電子輸送層として機能しないが、同社のRPD法を利用することで、PVD方式としては世界で初めて(同社調べ)、電子輸送層として機能する適度な絶縁性を持つSnO2膜を形成できることを確認した。
今回の技術は、現在各メーカーで検討が進められている電子輸送層の成膜方法と比べて量産性が高い他、生産コストも大幅に下げられるという。また、RPD法は太陽電池、フラットパネルディスプレイ、有機ELパネル向けの酸化インジウムスズ(ITO)などの透明導電膜の成膜装置として実績があることから、電子輸送層の成膜と透明導電膜の成膜の各工程を連続的に組み合わせることもできる。
今後は、同成膜技術の量産装置化とペロブスカイト太陽電池の製造工程への適用を目指す。
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