酸素を用いた環境調和型のメタ二置換ベンゼン合成法を開発:研究開発の最前線
東京大学は、空気中の酸素を酸化剤とした、環境調和型のメタ二置換ベンゼンの合成法を開発した。酸化セリウム担持金ナノ粒子触媒を用いることで、脱水素芳香環形成と2つの求核剤との反応を経るメタ二置換ベンゼンの一段階合成に成功した。
東京大学は2025年7月25日、空気中の酸素を酸化剤とした、環境調和型のメタ二置換ベンゼンの合成法を開発したと発表した。酸化セリウム担持金ナノ粒子触媒を用いることで、脱水素芳香環形成と2つの求核剤との反応を経(へ)るメタ二置換ベンゼンの一段階合成に成功した。
メタ二置換ベンゼンは、医農薬品や機能性ポリマーなど、さまざまな用途で利用されている。その合成には、有害試薬の使用や多段階の合成ステップが必要となる。特に、電子を与える置換基をメタ位に2つ導入することは難しく、新しい合成手法の開発が求められていた。
今回の研究では、担持金ナノ粒子触媒に特有の脱水素触媒作用を新たに発見。脱水条件で、酸化セリウム(CeO2)担体上に分散担持した不均一系触媒(Au/CeO2)を用いて、シクロヘキセノン類と第二級アミン類を基質とした脱水素芳香環形成反応を経るメタフェニレンジアミン類の選択合成に成功した。
この反応は、中間体の単離精製を必要としない一段階合成となり、空気中の酸素だけを酸化剤とする環境調和的な手法だという。また、CeO2担体との協働触媒作用と選択的脱水素により、これまで困難だったメタフェニレンジアミン類の選択合成を可能にした。
同触媒系は、さまざまなメタフェニレンジアミン類の選択合成に適用可能だ。今回の研究では、酸触媒や水の添加により、生成物選択性を変更できることも発見した。同様の触媒を使用し、N,N-二置換アニリン類やエナミノン類の選択合成も達成している。
新手法により、多段階を要する環境負荷の高い方法で合成していたメタ二置換ベンゼンが、環境に優しい一段階合成で入手可能になった。新しいメタ二置換ベンゼンも合成可能で、地球環境に調和した工程への置き替えや効率的な新規機能性化学品の創製が期待される。
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