欧州のPLM運用をひもとく、設計と製造がつながる最先端工場と日本の成功事例:ものづくり太郎のPLM講座(3)(6/6 ページ)
「すり合わせ」や「現場力」が強いとされる日本の製造業だが、設計と製造、調達などが分断されており、人手による多大なすり合わせ作業が大量に発生している。本連載では、ものづくりYouTuberで製造業に深い知見を持つブーステック 永井夏男(ものづくり太郎)氏が、この分断を解決するPLMの必要性や導入方法について紹介する。第3回は、なぜ製造現場と設計現場をつながなければならないのかを事例を含めて紹介する。
古野電気はPLM運用でどのような成果を上げたのか
古野電気は、E-BOM情報をPLMソフト上で構築し、E-BOM情報をXVL上に展開し、XVL上でM-BOMを作成している。同時に現場制約(装置制約や人間制約)を確認しながらBOP構築を可能としている。
さらに、BOPを構築していく上でCADモデルから圧縮したデータで構成した3Dビューワを確認することが可能になっており、工程ごとに3Dによる作業指示をそのまま構築することができる。3DCADから2次元図面にわざわざお絵描きで展開しなくとも、そのまま3Dデータを流用することが可能になっている。
製造現場ではXVL上で構築した3Dビューワを基に、生産指示書が構築されているだけではなく、ビューワが組み立て手順に沿って動くので、組み立て指示を紙図面上に言語化しなくても、ビジュアルで組み立て手順が分かるようになっている。3Dの動画で組み立て指示が分かるようになっているため、言語の壁がある海外の作業者も容易に理解できる。
一貫した3Dモデルの活用を実行しているだけでも先進的な取り組みであるが、効果はその他にもある。PLMソフトとXVLの導入によって、設計情報(BOM)と工程情報(BOP)を1画面で認識できるようになったことで、今までいがみ合っていた製品設計者と工程を構築する生産技術者との間で冷静なコミュニケーションが生まれ、製造現場で製造しやすい設計を取り入れることができるようになったというのだ(製品設計者が現場の工数を鑑みながら設計を行うようになったのだ!!)。
設計者が製造現場の苦労を分かるようになったことで、製品設計という川上からモデルを磨き込む活動につながっている。既に、ここまで記事を読んでくれた読者なら理解いただけていると思うが、古野電気の成功事例は「日本の製造業が目指すべきモデル」ではないだろうか。
この話には、まだ続きがある。
今までM-BOMや指示書の作成など、膨大な付帯業務に追われていた生産技術部だが、PLMソフトとXVLの連携によるシームレスな運用と、生産技術との連携による設計改革よって、業務的な余裕が生まれることになり、今までできていなかった改善活動も能動的に取り組めるようになった。
例えば、各生産工程のサイクルタイムを計測し、ボトルネックの改善に取り組む事例や、効率的な作業者との比較による、新人の育成など、改善活動は多岐にわたっている。
PLMの効果的な運用と、XVLによる一元管理によって設計情報の一気通貫での活用、そして製造現場の工程改善まで行えるようになったのだ。本当に素晴らしい変革だ。
古野電気の取り組みは、効率的な運用と、現場力を掛け合わせた理想形だといえる。もちろん、PLMシステムとXVLのシームレスな連携や(E-BOMとXVLには一度CSVファイルを挟む必要がある)、サービスBOMとの連携による保守部品戦略など、今後改善が必要な部分も残されているが、BOMを中心とした改革を続けて行けば、さらに良い環境を構築できるのではないだろうか。
古野電気の成功事例はわれわれも変われることを証明してくれている。言い方を変えれば製造業の光明である。売上高1000億円規模の古野電気ができるのであれば、他の大手/中堅製造業でも本質的な製造業PLM改革ができるはずだ。設計部と生産技術部、さらに関連部門が連携することによって、製品がドンドン良くなる製造業を目指せるはずだ。いずれにしろ、日本企業でも先進的な取り組みを行う事例はあるのだ。今後、同様の取り組みがさらに広がっていってほしい。
もちろん、連載の第1回、第2回でもお伝えしたように「PLMを中心とした改革を行いたい」「あるべき姿からの要件定義を行ってほしい」など、自社だけの力だけではいささか不安を覚えるということであれば、弊社を頼って頂きたい。よりすぐりのエンジニアと共にPLM改革をお手伝いさせていただく。
⇒連載「ものづくり太郎のPLM講座」のバックナンバーはこちら
永井夏男(ながい なつお)/ものづくり太郎
ブーステック 代表取締役/製造業系YouTuber/PLMコンサルタント
大学卒業後、大手認証機関入社。電気用品安全法業務に携わった後、ミスミグループ本社やパナソニックグループでFAや装置の拡販業務に携わる。2020年から本格的にYouTuberとして活動を開始。製造業や関連する政治や経済、国際情勢に至るまで、さまざまな事象に関するテーマを、平易な言葉と資料を交えて解説する動画が製造業関係者の間で話題になっている。2024年4月1日にはKADOKAWAより、初の著書「日本メーカー超進化論 デジタル統合で製造業は生まれ変わる」を出版。年間の講演数は100件を超え、国内外での取材も積極的に行っている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
なぜ日本の製造業はPLM構築につまずくのか? よくある失敗事例を見てみる
「すり合わせ」や「現場力」が強いとされる日本の製造業だが、設計と製造、調達などが分断されており、人手による多大なすり合わせ作業が発生している。本連載では、ものづくりYouTuberで製造業に深い知見を持つブーステック 永井夏男(ものづくり太郎)氏が、この分断を解決するPLMの必要性や導入方法について紹介する。第2回では、日本の製造業がPLM導入で失敗する理由について掘り下げる。PLMこそ日本の製造業に必要な理由――プロセスをコントロールしろ!
「すり合わせ」や「現場力」が強いとされる日本の製造業だが、設計と製造、調達などが分断されており、人手による多大なすり合わせ作業が発生している。本連載では、ものづくりYouTuberで製造業に深い知見を持つブーステック 永井夏男(ものづくり太郎)氏が、この分断を解決するPLMの必要性や導入方法について紹介する。初回となる今回はPLMの必要性について解説する。PLM実現の壁 〜構造的要因と組織のジレンマ〜
本連載では、製造業の競争力の維持/強化に欠かせないPLMに焦点を当て、データ活用の課題を整理しながら、コンセプトとしてのPLM実現に向けたアプローチを解説する。第2回は「PLM実現の壁」について深掘りする。PLMとBOMの基礎知識(2):PLMの進化の歴史を振り返ろう
本連載では製造業DXの成否において重要な鍵を握るPLM/BOMを中心に、DXと従来型IT導入における違いや、DX時代のPLM/BOM導入はいかにあるべきかを考察していく。第11回は、PLMに求められる機能の歴史を解説する。PLM雌伏の10年、これからは飛躍の10年となるか
2000年代前半から製造ITツール業界で話題になり始めた「PLM」。しかし、MONOistが2007年に開設してからこの10年間、PLMの実際の運用状況はPDMの延長線にすぎなかったかもしれない。しかし、IoTの登場により、PLMは真の価値を生み出す段階に入りつつある。全体最適を目指すグローバルPLMのグランドデザイン
「国内予選」で疲弊している場合じゃない! グローバルで最適な調達・製造を実現する基盤「グローバルPLMのグランドデザイン」とはPLM的な情報管理なんて実現しない?
製品ライフサイクル全体を管理するためにはPLMを基軸としたシステム作りが急務。PLM導入・改善プロジェクトを担当する際に事前に知っておくべき話題を、毎回さまざまな切り口から紹介していきます。規模の経済から“速度”の経済へ、PLM新世代
日本にPLMを紹介する先駆けとなった書籍「CRM、SCMに続く新経営手法 PLM入門」(2003年刊)を執筆したアビーム コンサルティングの執筆チームが、その後のPLMを取り巻く環境変化と今後のあるべき姿について、最新事例に基づいた解説を行う。