欧州のPLM運用をひもとく、設計と製造がつながる最先端工場と日本の成功事例:ものづくり太郎のPLM講座(3)(5/6 ページ)
「すり合わせ」や「現場力」が強いとされる日本の製造業だが、設計と製造、調達などが分断されており、人手による多大なすり合わせ作業が大量に発生している。本連載では、ものづくりYouTuberで製造業に深い知見を持つブーステック 永井夏男(ものづくり太郎)氏が、この分断を解決するPLMの必要性や導入方法について紹介する。第3回は、なぜ製造現場と設計現場をつながなければならないのかを事例を含めて紹介する。
BOMからBOPまでの運用がオールデジタルで進む欧州企業
一方の欧州企業はどのようなBOMからBOPの運用を行っているのだろうか?
2025年の3月末からドイツで開催されたハノーバーメッセに合わせて、ドイツの製造業であるZoller(ツォラー)の工場に訪問することができたので、BOMの運用状況を確認してきた。
ドイツのノルトライン=ヴェストファーレン州プライデルスハイムに本社を置くツォラーは、工作機械用のツールプリセッター、測定機、工具管理システムを製造/販売する企業である。ツォラーが提供しているのは、工作機械の加工に使う切削工具をツールホルダーに組み付ける装置だ。
ツォラーは850人の従業員を抱えるが、グローバル展開をしており、拠点数は85カ所も保有している。さきほどのアップルとソニーグループの話と矛盾するかもしれないが、ツォラーは製品において約300ものオプションを提供している。つまり、オプションごとに生産工程(異なる製造プロセス)があるということだ。
そこで、筆者は「これだけ多くのオプションを保有していれば、生産工程を指示するために製造現場とのすり合わせで大変ではないのか」「都度生産指示書を作成しているのか。コンフィギュレーション(装置の仕様や構成)をどのように確定しているのか」と質問を投げかけた。
すると、ツォラーの社長から信じられない回答を頂いた。
「BOPは全てデジタル情報で用意されている。都度工程表を作成しなくても、仕様が確定した時点で生産工程はデジタルデータで瞬時に準備される」
筆者は「まさか?」と耳を疑った。この話が本当であれば、生産技術者がいちいち工程表をExcelなどで都度作成する必要もなく、指示書の作成もする必要がない。つまりBOM〜BOPが完全に連携されていることを意味する。日本の現状からは考えられない運用だといえる。1000人に満たない従業員のドイツ企業が、BOMからBOPのシームレスな構築を実現していたことに驚きを隠せなかった。
BOM〜BOPの運用をデジタルで進める日本企業も
ただ、日本の製造業でも、こうした動きにいち早く対応してきた企業も存在する。その1社が、兵庫県にある古野電気だ。
古野電気は、兵庫県西宮市に本社を置く、海洋エレクトロニクス機器の総合メーカーだ。世界で初めて魚群探知機を実用化し、船舶用レーダー、GPSプロッター、ソナー、通信機器など、漁業・商船向けの製品で世界的に高いシェアを誇る。その技術は、医療機器や情報通信機器、DX推進など陸上分野へも展開されている。
古野電気ももともとはデンソーと同じように設計部から図面が出図されてからは、E-BOMを基に生産技術者が手作りの工程表をExcelで作成する転写作業を行っていた。その他にも、さまざまな仕向け地(出荷先)によって電源の仕様が異なるなど、電源モジュールなどを含めさまざまなカスタマイズが発生しており、それらに対応する部品リスト(M-BOM)も手作業で別に作成しなければならなかった。
もちろん、SMT(Surface Mount Technology、表面実装技術)工程やモジュールの組み立て工程があるので、それぞれの生産指示を行うために、2次元図面を手書きで描き起こし、生産指示書を1工程ずつ作成していくのも、生産技術者の仕事であった。
各仕向け地用の部品リスト(M-BOM)の作成や、工程表(BOP)の作成、さらには作業指示書を手書きで構成する多大な負荷が生産技術者にのし掛かっており、改善活動などにリソースを使うことができなかった。要するに、製造現場をうまく回すために日常業務でてんてこ舞い状態で、いずれ今のやり方のままでは回らなくなるのが見えている状態だった。
古野電気はこれを変革するために、PLMソフトとXVL(※)の運用を開始して、劇的な効果を上げている。正しい対策を打つ現場改革が始まっているのだ。
(※)XVLはラティス・テクノロジーの開発した軽量3Dファイルである
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