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欧州のPLM運用をひもとく、設計と製造がつながる最先端工場と日本の成功事例ものづくり太郎のPLM講座(3)(4/6 ページ)

「すり合わせ」や「現場力」が強いとされる日本の製造業だが、設計と製造、調達などが分断されており、人手による多大なすり合わせ作業が大量に発生している。本連載では、ものづくりYouTuberで製造業に深い知見を持つブーステック 永井夏男(ものづくり太郎)氏が、この分断を解決するPLMの必要性や導入方法について紹介する。第3回は、なぜ製造現場と設計現場をつながなければならないのかを事例を含めて紹介する。

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BOMとBOPの連携で生み出される世界

 では、BOMとBOPの連携ができていれば、どのような世界になるのだろうか?

 設計は現場の制約を認識しながら、モデリングが可能となる。製造現場側は、改善の成果がBOM(部品やモジュール)に還元されるため、自分たちの活動の成果として原価低減の効果も認識できるようになる。もしくは、改善効果を出すことが難しい形状であったことを設計側に伝えることができれば、次世代のモデルは現場制約を鑑み、製造の難易度が下がり原価低減につながるかもしれない。

 ソニーグループとアップルの事例で説明したように、設計と製造がシームレスに連携することで得られるメリットは大きい。モノづくりのフロントローディング化が叫ばれているように、製品の品質やコストは「設計段階で約8割が決まる」とも言われており、設計段階で製造に関する情報や原価情報などを把握せずに設計することは、かなり無謀だと言わざるを得ない。

 本来であれば製造現場の情報を設計につなげて、製造コストや付帯する負荷を分析し、戦略的にモデルを絞り込んだり、製造コストや品質不良をデータ化して設計にフィードバックしてモデルを磨き込んだりする必要がある。その他にも、製品リリース後にVOC(Voice of Customer)で顧客情報を集めて、使用感などのフィードバックを行い、モデルの最適化をしなければならない。

 標準品を磨き込めば、量産効果を出すこともできる。量産ラインの不具合は集中的に是正されるため、品質を安定させることもできる。しかしながら、日本の製造業では、カスタマイズ品があふれている。「この仕様でないと受注ができない」や「顧客がこう言っているから」という営業の魔法の言葉でバリエーションが非常に多くなっているのではないだろうか。

 バリエーションが多くなると品質不良が多くなり思わぬ修繕コストを支払うことにもつながる。総合的にビジネスとしてプラスになるのかを製品ごとに判断していく必要がある。そのためには、モノづくりに関わる情報を一元的に把握することが必要なのは明らかではないだろうか。

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標準品とオプション品の位置付け[クリックで拡大] 出所:筆者作成

 デジタルネイティブ世代にとって、スマホで情報をやりとりするのが当たり前の時代に、BOMとBOPが連携されず「各モジュールに対して工程表がひも付いていないとは本当か」と疑問を持たれるかもしれない。しかし、日本の製造業では、本当に連携ができていない企業が非常に多いのが現実だ。

 例えば、トヨタグループの一角であるデンソーもその1つだ。デンソーといえば、製造業の中でも先進性があり、優れた企業として有名だ。利益率は5%を超え、工場に行けば5Sが徹底されており、製造現場は非常にきれいで、複雑な装置が整然と稼働している。そんな優れた現場を持つデンソーでも、設計から製造までの部門を横断するプロセスについては、前時代的な部分が多く、改革が進んでいない領域が数多く残されている。実際に筆者が見た現場では、BOMとBOPの連携はできていなかった(この状況は1年前で、現在は変わっているかもしれない)。

 デンソーの設計から製造へのプロセスだが、3D CADで設計し、検証が終わった図面はDR(Design Review、製造や調達などに回してよいか技術者間で確認)を行う。DR後は、出図され各関連部門に展開される。ここで一つ大きな問題がある。3Dでモデリング(設計)したのにもかかわらず出図後はわざわざ2次元図面に変更を行い、2次元図面を基に現場運営を行っているのだ。BOPについては、手作業で構成している。

 決して2次元図面が悪いと言いたいわけではないが、2次元図面を基にBOP(製造工程)を構築していくため、途中で2次元の図面情報となり、BOMとBOPのデジタル連携が取れていないことが問題なのだ。つまり設計側と製造現場側で情報の断絶が起こっており、設計や現場のデータに基づいた改革ができないということだ。日本の大手製造業でもこのありさまで、他の企業は推して知るべしという状況だ。

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