欧州のPLM運用をひもとく、設計と製造がつながる最先端工場と日本の成功事例:ものづくり太郎のPLM講座(3)(3/6 ページ)
「すり合わせ」や「現場力」が強いとされる日本の製造業だが、設計と製造、調達などが分断されており、人手による多大なすり合わせ作業が大量に発生している。本連載では、ものづくりYouTuberで製造業に深い知見を持つブーステック 永井夏男(ものづくり太郎)氏が、この分断を解決するPLMの必要性や導入方法について紹介する。第3回は、なぜ製造現場と設計現場をつながなければならないのかを事例を含めて紹介する。
アップルとソニーグループに見る成功事例と失敗事例
こうした失敗事例は、大手電機メーカーであっても例外なく陥るものだ。無駄に新たなモデリングをするともうからないことを示す面白い事例がある。米国Apple(アップル)とソニーグループのスマートフォン端末の例だ。
アップルとソニーグループの2014年までのスマートフォン端末の製品仕様数を比較すると、アップルはiPhoneのバリエーション展開を8年間で10機種にとどめている(画面サイズ違いの4種類を含む)。一方、ソニーグループはたった4年間で55機種(画面サイズ違い19種類を含む)もの展開を行っており、半分の期間に5倍以上のバリエーションを市場に投入したことになる(8年間で換算すると10倍だ)。
ここまで読んでいただいた読者であれば気づいてもらえると思うが、さまざまなバリエーション設計の背景には、膨大な生産工程や装置などによる工程がひも付いている。それを考えると、ソニーグループは工程の検討や専用装置の設計、製造、手配などに関する付帯作業(すり合わせ)がさらにアップルの何倍も必要であったことは想像に難くない。
iPhoneは世界最大の量産効果を生み出しており、2024年は約2億3000万台の販売を行っているのに、バリエーションはたった5つしかない(iPhone、iPhone Plus、iPhone Pro、iPhone Pro Max、iPhone SE4)。
ソニーグループのスマートフォン事業は当時、継続して赤字となっていたが、iPhoneよりもシェアが少ないのにバリエーションを10倍も生み出してしまったことはその一因だったといえるだろう。スマートフォン端末普及期の当時の事情があったにせよ、本来であればiPhoneよりバリエーション数を絞り込み、量産効果を得ることも考えるべきポイントだっただろう。
話を戻すが、BOMとBOPがひも付かず、製品を企画する際や設計を行う際に現場の制約や目標原価を認識できないことは、裏に隠された膨大な工数を認識せずに設計を行うことにつながり、ソニーグループのスマートフォン事業のように、バリエーションを無駄に増やし、製造現場の疲弊やコスト高というリスクを引き起こすことにつながりかねない。
一方の製造現場側は、いくら改善し、最適な製造工程表を作成したとしても、その成果が設計に還元されることがなければ「次に生かされない」。こういう体制では、生産技術者がどれだけ頑張ったとしても、評価される日は永遠に来ないだろう。このようにBOMとBOPが連携できないことは、設計と製造の互いの状況を把握できず、モノづくりにおける情報の断絶を意味する。
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