欧州のPLM運用をひもとく、設計と製造がつながる最先端工場と日本の成功事例:ものづくり太郎のPLM講座(3)(2/6 ページ)
「すり合わせ」や「現場力」が強いとされる日本の製造業だが、設計と製造、調達などが分断されており、人手による多大なすり合わせ作業が大量に発生している。本連載では、ものづくりYouTuberで製造業に深い知見を持つブーステック 永井夏男(ものづくり太郎)氏が、この分断を解決するPLMの必要性や導入方法について紹介する。第3回は、なぜ製造現場と設計現場をつながなければならないのかを事例を含めて紹介する。
設計と製造がシステム連携できていないことによる問題
製造現場のDXは各企業で進むようになってきたが、それだけでは製造業トータルで見た場合のさまざまな問題が解決できるわけではない。筆者が大きな問題があると考えているのは「製造現場の改善活動を行ったとしても、具体的にどれだけ(財務的に)効果が出たのか」「どれだけ原価の低減効果があったのか」ということを具体的に説明することができないという点だ。
つまり、いくら素晴らしい現場の改善をしたとしても(サイクルタイムの向上をしても、不良率を低下したとしても)「具体的にどのくらいもうけが出たのか」について、精緻な情報が分からないのだ。改善活動などの経営的成果が明確に示せない。
こうした製造現場担当者の泥臭く粘り強い改善や創意工夫の成果が、正当に評価されない環境となってしまっているのには明確な理由がある。それは、設計と製造がシステム的に連携していないためだ。具体的には、部品表(BOM:Bill Of Materials)と工程表(BOP:Bill of Process)がひも付いていないことが原因である。
簡単に表現をすると、各部品やモジュールを製造するために、どのくらいのプロセス(製造工程)が必要になるのかが分かっていない(データ化されていない)のだ。部品情報とプロセス情報が連携していないので、部品を製造するために必要になった装置や人数、機械の数が分からない。つまり、製品を設計する際に、現場の制約(装置、治工具の制約や工数の制約)や原価が分からずに設計しているのだ。そのため、部品を製造するための原価も分からず、改善によって人工(にんく)を減らしたとしても、原価がどれだけ圧縮できたのかも分からないのである。
もう少し分かりやすく、具体的な話を織り交ぜながら話してみよう。分かりやすいように、身近な生産物として扇風機の設計と製造を実行すると仮定して話を構築する。
ある設計者が扇風機の風量を上げるために「羽根を5mm大きくする」という設計変更を行ったとする。たかだか羽根を5mm大きくする設計変更かもしれないが、製造現場には膨大な負荷が発生する(※)。
(※)羽根の大きさもJIS規格で定められているので5mmの変更はないかもしれないが、あくまで例として考えて頂きたい。
- JIS規格の再検証と評価(JIS規格には一定の角度の傾きでも倒れてはならない安全規格が存在するため、重量を変えるための再試験が必要)
- 羽根変更に伴う設計変更(羽根カバーなどの設計変更)
- 羽根を成形するための金型の再設計と製造(外注であればその指示)
- 製造工程表(BOP)の再検討
- 製造工程で使用する位置決め治具などの再検討、設計、製造
- 生産指示書の修正(どのように組み立て、加工すればいいのかを示す図の作成)
このように、少しの大きさの変更であったとしても、現場技術者(多くの場合は生産技術者)の膨大な付帯作業を引き起こすことになるのだ。一方の設計者は、設計変更に伴う現場の痛みを知らないため、配慮することなく設計を好き勝手に変更してしまうかもしれない(※)。実際に、自動車のメガTier1の担当者でさえ、原価情報を持たずにモデリングを行っている事例を、筆者は何度も見たことがある。
(※)もちろん製造現場の状況をよく理解し、良好な関係を築いている設計者が数多くいるのは事実だが、それは属人的な場合が多く、システムとして確保されていないという趣旨だ
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